数日前、ずぶぬれになったせいで、シマリスは熱を出してしまいました。
 看病してくれたお母さんにも、お見舞いに来てくれた友達にも、ずいぶん心配をかけてしまいました。

 でも、どうして体をぬらしてしまったのかは、言えませんでした。
 きれいな木の実を取ろうとして、足を滑らせたなんて、恥ずかしかったからです。
 冬の川は、小さな体が凍りつくかと思うほど、冷たいものでした。

 ***

 元気になった日の朝、シマリスは服屋へと急いでいました。

 寂しがりやのハリネズミを、ずっと一人にしてしまったので、心配だったのです。
 ベッドの中でみんなに心配されながら、シマリスはずっとハリネズミのことを考えていました。

 クロクマにもらったキャンディを大事に抱えて、シマリスは走りました。

 ***

 シマリスが、服屋に着くと、まだ窓が閉め切られていました。
 ハリネズミは、まだ眠っているのかも知れません。

 シマリスは、そぉーっとドアを開けました。
 薄暗い中をきょろっと見渡します。
 手前に並んだ服達には、列ごとにまだカバーがかけてありました。

 シマリスは、キャンディを奥のテーブルに置いて、窓を一つ一つ開け始めました。
 順々に、外の光が店の中に注がれていきます。
 途中、シマリスは窓際のシクラメンに気がついて、ふふっと笑いました。
 明るくなると、店の奥に並んだものが、シマリスに見えてきました。

 赤いポンチョが10着、つるされていました。
 シマリスが休む前は、4着しかなかったはずです。
 シマリスが寝込んでいる間に、ハリネズミが6着も作ったということでした。
 いつも以上の仕事が出来るくらい、ハリネズミは元気だったようです。

 シマリスはほっと息をつきました。
 でも、すぐに額にしわを寄せました。

 ハリネズミ一人に、いっぱい仕事をさせてしまいました。
 がんばってくれたハリネズミのためにも、シマリスは休んでいた分を取り戻さなくてはいけません。
 シマリスは、ぐっと両手を握って気合いを入れました。

 その時、奥のドア向こうから、トタトタと足音が近づいてきました。
 ドアが開いて、ハリネズミが入ってきました。
 ハリネズミは、パチパチと目をまたたかせました。
 店の中がもう明るいことに、びっくりしているようです。

 そして、シマリスをみつけて、その目がきらりっと光りました。

「シマリス!」

 ハリネズミが、シマリスの下へとトタトタ走ってきます。
 シマリスは両手を広げて、ハリネズミを抱きとめました。
 後ろにちょっとよろけます。
 ハリネズミは、シマリスをぎゅっと抱きしめて、ぴょんぴょん跳ねました。

「良かった! 元気になったんだね!」
「はい。ご心配おかけしました。」

 シマリスが苦笑します。
 ひとしきり跳ねて満足したのか、ハリネズミが離れました。
 ぐいっとシマリスの手を引きます。

「もうご飯食べた?」
「食べました。」
「えー?」

 一緒に朝ご飯を食べたかったのでしょう。
 ハリネズミは不満そうに声をあげます。
 しかし、すぐにぱっと顔を輝かせました。

「そうだ! ミルクティいれてあげる! 一緒に飲もう!」

 ハリネズミはそう提案して、またシマリスを引っぱって行きます。

 うなずいたシマリスは、テーブル横を通った時、キャンディに目をとめました。
 そうだった。
 お土産があったんだった。

「ハリネズミさん。クロクマくんに、キャンディいただいたんですよ。」

 クロクマが買ったキャンディなら、おいしいはずです。
 ハリネズミも気に入るでしょう。
 そう思って教えると、キャンディに目を向けたハリネズミが、うれしそうな声をあげました。

「あ! ハニーミルクキャンディ!」

 シマリスは首をかしげました。

「あれ? 知ってるんですか?」

 シマリスは初めて見たのに。
 ハリネズミが、うん、とうなずきました。

「エダツノ屋でね、新発売なんだよ。クロクマくんも食べてるんだね。……もしかして、大流行中?」
「まあ、大変。一度も食べてないなんて、わたし、流行に乗り遅れてしまっています。」

 服屋として、ゆゆしきことです。
 シマリスが大げさにびっくりしてみせると、ハリネズミがクスクス笑いました。

 ***

 ハリネズミが朝ご飯を食べ終わると、二人は並んで赤い毛糸を編みました。
 分け合ったキャンディがおいしくて、
 久しぶりのおしゃべりが楽しくて、
 ポンチョはあっという間に編み上がりました。


 ○