朝起きて、うり坊はとっても悲しい気持ちでした。

 最近友達は、特別な日につける髪飾りの話ばかりしています。
 その話を聞いて、うり坊は赤いリボンを思い出しました。

 真ん中に赤いキラキラのビーズがついた、チェック柄のリボンです。
 少し前に、お姉さんのお買い物について行った時、ハリネズミさんの店でみつけたのでした。
 とっても欲しかったのに、その時はおこづかいが足りなかったのです。

 だから、今こそ買おうと思ったのでした。
 もう髪飾りを買ってもらった子達が、今日つけてくると言っていたので、昨日のうちに欲しかったのです。

 朝ご飯もそこそこに、うり坊がメソメソ泣いていると、お姉さんが頭をなでてくれました。

「遅刻しちゃうよ?」

 そう言って、動かないうり坊の代わりに、学校に行く支度をしてくれます。
 うり坊の頭をクシで整えて、今日は赤い花を耳につけてくれました。
 そして、お兄さんが持って帰ってきたキャンディの一つを、うり坊の口に押し込みました。

 ミルクの優しさとハチミツの甘さが、悲しい気持ちを少しだけ包んでくれました。

 お姉さんは、残った一つを、うり坊のポシェットに入れました。

 ***

 キツネ先生は、普段、毎日学校に来ているわけではありません。
 週二回ある、音楽の授業の日だけ来るのです。
 うり坊は、この週二回をとっても楽しみにしていました。
 歌うのが好きで、キツネ先生のことも大好きだったからです。

 もうすぐ発表があるので、子ども達は毎日歌の練習をしていました。
 キツネ先生も毎日学校に来てくれました。
 今日も、練習が始まる前に、子ども達がキツネ先生の周りに集まっています。

 そこに、ウサギの女の子とイタチの女の子が進み出ました。
 ウサギの女の子はリボンで出来た花飾りを、イタチの女の子はキラキラのビーズで星をかたどったカチューシャを、それぞれつけています。

 ママに買ってもらったと、うれしそうなウサギの女の子。
 おこづかいで買ったのだと、誇らしげなイタチの女の子。
 キツネ先生がにこにこ笑ってくれます。

「よく似合ってますよ。」

 うり坊は、ぷぅーっとほほを膨らませました。
 本当なら、自分もあそこにいたのに。
 ああやって、先生に褒めてもらえたのに。

「なんだ、ウリ。お前、キャンディでも食べてるの?」

 クマの男の子が、うり坊のふくれっ面をからかいました。
 うり坊は、ぎろっとその子をにらみました。
 そして、はっと思い出しました。
 ポシェットからあわててキャンディを取り出すと、先生の下へ駆けて行きます。

「先生、先生っ。先生、甘いもの好きだよね?」
「え? はい、好きですよ。」

 不思議そうにしながらも、先生はうなずいてくれました。
 うり坊は最後のキャンディを、先生へ差し出しました。

「これあげる! お兄ちゃんにもらったの! すっごくおいしいの!」
「へえ、ありがとうございます。」

 キツネ先生は、キャンディをそっとつまみ上げて、にっこり笑ってくれました。
 うれしくて、うり坊の耳がピコピコ動きます。
 先生の目が、うり坊の耳に向けられます。

「いつもつけている花は、お家で育てているものですか?」

 先生がそう聞くと、うり坊はうなずきました。
 先生が笑みを深くします。

「とってもきれいですね。よく似合っていますよ。」

 先生は、うり坊の頭をぽんぽんとなでて、みんなを振り返りました。

「さあ、そろそろ練習を始めましょうね。」
「はぁーいっ!」

 良い子のお返事をして、子ども達がパートグループに分かれます。
 うり坊もぼんやりしながら、みんなに交じりました。
 何だか、胸がムズムズして、ほほが熱くなりました。

 ***

 歌の練習が終わると、うり坊は学校を飛び出しました。

 走って走って、突撃するようにお家に飛び込みました。
 そして、花の世話をしていたお父さんの、丸いおなかに飛びつきました。

 突然のことに、花がらをつまんだまま、お父さんは目を見開いています。
 うり坊は、おなかに抱きついたまま、お父さんを見上げて言いました。

「お父さん、お父さん。わたし、お花つけてく。発表の日も、お家のお花つけてくよ!」

 お父さんは、しばらく目をパチパチさせた後、うれしそうに笑ってくれました。


 →