「こちらのお席にどうぞ」

 予約席にしておいたカウンター席にふたりを案内する。予約時間をピークタイムからずらしてもらったので、店内のお客さんはほぼ食事を終えている。

「いらっしゃいませ。店主の味沢一心です」

 一心さんも、厨房から出てきて挨拶する。

「白州です。酒井さんのいきつけのお店ということで、楽しみにしていました」

 低めの少し甘い声と、落ち着いた話し方。『大人の余裕と色気がある』と響さんは言っていたが、確かに納得だ。老若男女関係なく、人を惹きつける魅力のある人だと思う。

「白州さんは、陶芸家なんですよね」
「はい。笠間を拠点に活動しています。まだ若手なので、陶芸家と名乗るのもおこがましいのですが」

 わかっていることだが、話のとっかかりとしてたずねると、白州さんは恥ずかしそうにあごをかいた。

「あの、私も響さんのバーで、白州さんの作られた器を拝見しました。素人の感想になっちゃうんですけど、あったかくて、手元に置いておきたくなるような感じで……。私はとても、好きです」
「それはうれしい。使ってくださった人に褒めていただくのがいちばんうれしいんですよ。器は、使うものですから」

 笑うと、目尻がくしゃっとなる。一心さんも響さんも、白州さんの話に聞き入っているのがわかった。

「観賞用に作られる人もいると思うんですけど、白州さんは違うんですね」

 お茶碗などの食器でも、蒐集することが目的の人もいる。

「そうですね。やっぱり、料理をのせて使ってもらうほうが、器も喜ぶんじゃないかと思うんです。僕が作るものが素朴で、高級路線じゃないというのもありますが。主役は料理で、器はそれを引き立てられたらいいなと思って作っています。……このお店の器も、どれもいいですね」

 こころ食堂で使っている器も、素朴で温かみのあるものだ。派手ではなく、でも長く使いたくなるような。その点は、白州さんの作品と似ている。