「……ほーんと、私ってひっどい人間」

 自嘲気味に零して、私は"私"という人間の本質を改めて思い知る。
 高倉さんの言った通りだ。私は実に、腹黒い。
 だからといって今更、落ち込んでなんかあげないのだけど。

「……"念"、といのは」

 降ってきた声に、雅弥を見上げる。

「思念、雑念、怨念。いわゆる人の持つ感情は"念"となるが、あまりに強い感情は持ち主から溢れ、他の"念"を引き寄せ、育つ。力を持てば持つほど宿主の思考に強く干渉し、その人格や行動に影響をもたらす」

「……それって、高倉さんが私を殺そうとしたのも、育っちゃった"念"が指示したせいだってこと?」

「いや。"念"はその思考に、あくまで"干渉"するだけだ。例えば、本人すら気づいていない潜在意識を増幅させ、自覚させたりな。が、それだけだ。"念"が自ら宿主に行動を指示することは、ない」

 言い切った雅弥は「つまり」と、高倉さんに視線を流し、

「多かれ少なかれ、この女はアンタが存在しなければと考えていたのだろう。その想いが"念"によって増幅し、力づくでの"排除"に至ったと考えるべきだ」

「あー……なるほどねえ、納得」

「これを聞いてもなお、アンタは自分に責任があると考えるのか?」

 尋ねる雅弥の双眸が、じっと私を映す。
 街頭を反射する、夜のように黒い眼。そこどんな感情が込められているのか、私にはわからない。

 ――どうかそれが、"嫌悪"じゃないといいな。
 理屈なく、純真に願いながら、私は「うん」と頷いた。

「そりゃあね、もともと理不尽極まりない理由で邪険にされてたし、そこに関しては被害者です! って胸はれるんだけども……。それでもやっぱり、高倉さんに私を襲わせるなんて、させちゃ駄目だったのよ。私は高倉さんを止める術を知ってた。だから、彼女をここまで傷つけたのは、どうしたって私ね」

「……必要な情報は話した。アンタがそうやって自ら罪を刻むというのなら、俺はこれ以上口を出さない」

 雅弥がそう、呆れ交じりに嘆息した時だった。

「――おっまえなあ!? "狐"の呼び出しがあるときは事前に連絡寄こせって、何べんも言ってんだろ!?」

「わわっ!?」

 突如轟いた怒号に顔を跳ね向けると、夜道を全力で駆けてくる男性が視界に入った。
 目元には縁のある眼鏡。短い黒髪はその速度を物語るようにして、額を露わにしている。