(……"無関係"、ね)

 ちらりと雅弥を見遣れば、その顔には明らかな焦燥。
 それが雅弥自身の保身のためじゃなくって、たぶん、私の心配をしてくれているんだろうなってわかってしまう程度には、私はここに――雅弥に、入れ込んでいる。

 視線を雅弥の前の机上に落とす。置かれたままのスマホには、お祖母ちゃんから受け取って、カグラちゃんに息づかせてもらった鈴。
 お葉都ちゃんが紅をさしていた鏡に、渉さんが用意してくれた緑茶。
 そしてこの耳に揺れるのは、郭くんとの約束の証。
 この全てを"無関係"と突き放すのは、ちょっと、難しい。

「……私は何をしたらいいの」

「ほう、俺の我儘を聞いてくれるか」

 刹那、「まて」と雅弥が声を上げ、

「――っ、アンタ、本当にわかっているのか。ソイツは自身の好奇心を満たすためなら、どんな手も使う相手だぞ」

「竹馬の友を前に、酷い言いようだな」

「事実だろ」

 凄む雅弥に壱袈は肩をすくめつつ、「なんと悲しい」とワザとらしく目元を覆う。が、

「まあ、否定はせんがな。それが俺であり、あやかしの本質だ」

 さて、と壱袈は首を傾け、

「いかがする? 唐傘(からかさ)の華よ。今ならまだ、"やはり間違えた"と退いても構わんぞ」

 ……ああ、なるほどね。向けられた赤い目に、納得。
 そこに映るのは隠しきれない愉悦。
 それもまるで新しい玩具を見つけた子供のような純粋さで、緊迫した私たちとの温度差に、雅弥の忠告を理解する。

 私がどちらを選択するか。
 きっと壱袈にとっては鳩が出るか杖が出るか程度の違いで、この選択に惑う私たちそのものが彼を楽しませる見世物なのだろう。

 お葉都ちゃんや郭くんとは違う。
 これがまさに――あやかし。

 私はひそかに生唾を飲み込んでから、「……お気遣いありがとう。けど私、何も間違えてないから」と胸を張る。

「受けて立とうじゃない。私を調べたいというのなら、いくらでもどうぞ。壱袈は私に何をお望み?」

「なるほどなるほど――よいな、雅弥。俺は充分に譲歩した」

 雅弥が悔し気に奥歯を噛む。
 私は「雅弥」と名前を呼んで、机へと歩を進める。

「心配しないで。わからないなりにも上手くやってみせるから。共倒れになる気なんて、さらさらないからね」

「! だからアンタは……どうして、自分の身の安全を一番に選ばないんだ……っ!」