「その……イカメンチとは、どういうものなんだ?」
八雲の話を聞き、興味が湧いたらしい光秀は、大きな身体を屈めて屋台の中を覗き込む。
どうやら本当に、イカが好物のようだ。
先程まで政宗を厳しく睨んでいた目は、爛々と光りながらイカメンチのタネを見つめている。
「イカメンチは熱海のソウルフードのひとつで、新鮮なイカを中心に魚のすり身とよく練り混ぜ、つみれ状にしたものを、揚げたり焼いたりしたものなんです」
言いながら花は、既に成形して揚げるだけの状態にしたイカメンチのタネが入ったケースを、政宗の前に差し出した。
「ケッ!」
不本意そうに、それでも素直にタネのひとつを手に取った政宗は、それを用意してあった油の中へと静かに沈める。
「イカメンチは揚げたてを召し上がっていただくために、お客様のご注文が入ったらその場で揚げることにしたんです」
「おお、そうなのか!」
花の説明と同時に、一同の目の前でイカメンチがパチパチジュワッ!と良い音を立て始めた。
そうしてしばらく待ち、良いキツネ色になったタネを油から上げた政宗は、手早く専用の紙に包む。
「ほらよ」
「熱いから気をつけてくださいね!」
揚げたて、アッツアツのツヤッツヤ。
熱海名物、イカメンチの出来上がりだ。
政宗から手渡されたそれをマジマジと見つめた光秀は、磯の香りを思う存分堪能してから、大きな口を開けてイカメンチに噛み付いた。
「は……っふ、はふっ!」
口に入れた瞬間、揚げたての身からジュワッと魚の旨味が溢れだす。
イカのプリップリの食感と、ところどころコリコリとしている食感の両方が楽しめるのは、このイカメンチの醍醐味のひとつだろう。
そして噛めば噛むほど、イカの濃厚な旨味と甘さが口の中を埋め尽くす。
「これは、うまい! それに……なんだかどこか、懐かしい味だなぁ」
感嘆した光秀は、ここへ来て初めて顔を綻ばせた。
その様子を見た花は、思わず八雲と目を合わせてからホッと安堵の息を吐く。