「ん……。酸っぱい……のに、とても甘いわさ」
「おいしいだろう?」
「ふん……まぁまぁだわさ」
イチゴと同じ、赤い紅が引かれた唇が不本意そうに尖っている。
「それにしても、黒桜。まさかあんたが、憎んでたはずの人と肩を並べて働くなんてね。長く生きてりゃ、珍しいものも見れるもんだわいなぁ」
小さく笑って黒桜から目を逸らした黒百合は、ルビーのようにつやつやと輝くイチゴ飴を見て、眩しそうに目を細めた。
「……そうだな。あの頃はまさか、こんな日が来るとは思いもしなかった」
そうして黒桜もまた、小さな花が開いたように顔を綻ばせると、そっと静かに空を見上げた。
「懐かしいな、黒百合。お前も私も、随分と長い年月を生きてきたが……。振り返ってみれば、失ったもの以上に得たもののほうが多いように思う」
爽やかな夏風が、ふたりの間を駆け抜ける。
黒桜がまとった黒い着物の裾と、黒百合がまとう黒い着物の袖がふわりと靡いた。
それを合図に再び目を合わせたふたりは、互いの心を重ねるように沈黙すると、同時にフッと顔を綻ばせた。
「宿帳である器には角しかないくせに、随分と、丸くなったもんだわさ」
「ああ、そうだな。だが、今の自分がとても心地よい。きっと、そう思えるのもお前がいるおかげだ」
「なんだって……?」
「黒百合……今更だが、怒りに飲み込まれかけた私を止めてくれてありがとう。黒百合がいてくれたからこそ、今の私がここにいるよ」
「……っ」
黒桜の穏やかな声に、花は思わず瞳を潤ませた。
黒百合は一瞬キョトンと目を丸くしたあと、おもむろに「ハッ!」と声を零して笑い、イチゴ飴へと視線を移してもう一度、それを口に頬張った。
「やっぱり甘い。まるで、今のあんたみたいだわさ。でも、それも存外、悪くないかもねぇ」
さわさわと、木々の葉の擦れる優しい音がする。
花はふたりを見てそっと微笑むと、決意を新たに再度、政宗と光秀へと目を向けた。
「黒百合と黒桜は、無事に和解したようだぜ、親父」
「ああ、そうみたいだなぁ。だが、ワシとお前は、まだまだそう簡単に和解というわけにはいくまい」
しかし、肝心のふたりは相変わらず、目を合わせればバチバチと火花が飛び散る、最悪の状態だ。
(どうすれば、このふたりを仲直りさせられるの……⁉)
と、花が右往左往していたら、
「光秀殿、ご無沙汰しております」
優雅かつ、しなやかな所作で、つくもの主人である八雲がふたりの間に割って入った。