「……ふん。どうやら真面目に働いているようだな」

「誰かさんが、ここで成果を出さないと現世行きを認めてくれないって言うからよぉ」


 だが、予想通りと言えば予想通り。

 政宗と光秀は顔を合わせた途端に、売り言葉に買い言葉で臨戦態勢に入ってしまった。

 バチバチと火花を飛ばすふたりを見て、ハッと我に返った花は慌ててふたりの間に割って入った。 


「光秀さんに黒百合さん! 今日はつくも縁日に、ようこそおこしくださいました!」


 おでんを掬うお玉と菜箸を持って花が明るく言えば、光秀は片眉を持ち上げて花の顔をマジマジと見つめた。


「おお……。もしや……お嬢さんが、あの八雲の伴侶となる子かな?」

「あ……は、はいっ! ご挨拶が遅れて申し訳ありません! 私は丹沢 花と申します。どうぞよろしくお願いします!」


 お玉と菜箸を持ったまま花が頭を下げれば、光秀はまた物珍しそうに花の様子を観察した。


「今日は、静岡ならではの逸品を集めた縁日となっています!」

「静岡ならではの逸品?」

「はい! 光秀さんは何からお召し上がりになられますか? お好きな食べ物を教えていただけたら、こちらから色々とオススメさせていただきます!」


 花が堂々と胸を張ると、光秀は戸惑いを浮かべた表情で顎髭を撫でつつ沈黙した。


「黒百合は、イチゴが好きだったろう」


 と、タイミングを見計らったかのように、ふたりの背後からひょっこりと現れたのは黒桜だ。

 突然黒桜に声をかけられた黒百合はハッとして目を見開くと、かつての同僚、黒桜の顔を静かに見つめた。


「ほら、伊豆で採れた(べに)ほっぺを使ったイチゴ飴だ。食べてみろ」


 言葉の通り、黒桜の手には大粒のイチゴが長い串に三つ刺さったイチゴ飴が持たれていた。


「……ワイの好物を覚えているなんて、相変わらずマメな男だわさ」


 皮肉めいた黒百合の返事には、素直になれない彼女の照れが含まれていることを花はもう知っている。 


「相変わらずなのは、お前も同じだろう。これは花さんや政宗坊、ニャン吉殿と共に作ったものだ。味は保証するから、安心して食べてみるといい」


 そして黒桜も、もう黒百合相手に動揺することはなかった。

 黒桜に強く勧められ、黒百合は一瞬躊躇いを見せたあと、イチゴ飴を受け取った。

 フレッシュな果肉にたっぷりの果汁が詰まったジューシーなイチゴに、外側の飴のパリッとした感触が楽しい一品だ。

 黒百合はイチゴ飴と黒桜を交互に見たあと、そっと口を開けてイチゴの先端に噛み付いた。