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「いらっしゃいませー! はい、富士宮焼きそば、ふたつですね? 少々お待ちください!」
七月は十五日。
その日、熱海の町は年に一度の熱気と賑わいに包まれていた。
住民のみならず、全国津々浦々から集まった観光客が祭りを盛り上げ、祭囃子や御輿を担ぐ威勢のよい声が、海辺の道を活気づけている。
「ちょう助くーん! こっち、そろそろ野菜が切れそう!」
「了解! あ、桜えび入りのお好み焼きですね! はい、お熱いので気をつけてくださいね。お好みで特性わさびマヨネーズをかけてお召し上がりください!」
兼ねてより【つくも縁日】の開催を贔屓筋に知らせていたおかげか、その日のつくもは現世に負けじと、かつてない熱気と賑わいに満ち満ちていた。
「おお、花、久しぶりだのぅ! 相変わらず威勢が良いな!」
静岡自慢のB級グルメ、富士宮焼きそば作りに精を出す花に声をかけたのは掛け軸の付喪神である虎之丞だ。
続いて番傘の付喪神である傘姫に、国宝でもある薙刀の付喪神の薙光と、久々の面々が次々に花のもとへと挨拶にやってきた。
「弁財天様と弁天岩さんは、やっぱり来られないんですかね……」
「あのふたりはのぅ、今日は現世での仕事が忙しいじゃろうし。また改めて顔を出しに来ると言っておったわい」
「そっかぁ……」
花がシュンと肩を落とす。
弁財天と弁天岩には、政宗とニャン吉を助けてもらったお礼を言いたいと思っていたのだが、それはまたの機会に持ち越しになりそうだ。
「おい、ブス! 手が空いたらこっちも手伝え!」
「はいはーい! あ、ぽん太さん、ちょっとここお願いできますか? それと横の、みしまコロッケも追加で作っておいてくれます?」
花がアレコレとぽん太に言い付ければ、ぽん太は「付喪神使いの荒いやつじゃのぅ〜」と文句を言いながらま、着ている割烹着の袖をまくった。