「それなら、お祭りなんてどうかな⁉」

「お祭り?」

「……って、どういうことだよ」


 珍しく、八雲と政宗の息があった。

 花は再び姿勢を正して精一杯興奮を押し込めると、つい先日、ぽん太と黒桜と話したことを頭の中に思い浮かべた。


「うん! ほら、もうすぐ現世の熱海では、こがし祭りがあるでしょ? そのときに、つくもでは何もしないって聞いたんだけど、私は何かできたらいいなって思って……」


 とはいえ、当日は目の回るような忙しさになることは決定している。

 だから無理なく、それでいてお客様にも楽しんでもらえる企画ができたらいいと、花は密かに思っていたのだ。


「例えばなんですけど、つくもの玄関前のスペースで、ミニ縁日を開催するなんてどうでしょうか?」

「ミニ縁日だぁ?」

「うん! それで、そのミニ縁日には宿泊客はもちろん、熱海に住む神様たちや、たまたま熱海に来ている神様たちも来られるようにするの!」


 食べ物系の屋台をいくつか出して、宿泊客の夕食もそこで食べられるようにすれば一石二鳥というやつだ。


「それで……その縁日に、政宗の父である光秀殿も招待するというわけか」


 花の提案の意図に気づいた八雲は、穏やかな口調で花に尋ねた。


「はい! 縁日ってすごく賑やかで楽しいし、開放感もあるじゃないですか。だから、いつもとは違った空気の中でふたりを会わせられるんじゃないかなって思って!」


 何より、お客様にも喜んでもらえるはずだ。

 一石二鳥どころか、一石三鳥、一石四鳥くらいの価値があるかもしれない。


「つくも縁日作戦……どうでしょうか?」

「名案じゃ!」

「わっ⁉」


 そのとき、ポンっ!という破裂音とともに、お決まりのぽん太がモフモフの尻尾を揺らしながら現れた。


「俺達も、今のアイデアいいと思う!」

「私も賛成です!」


 続いて部屋の扉の向こうから現れたのは、ちょう助に黒桜だ。

 ちょう助の手には政宗のために用意されたお粥が持たれている。

 三人とも、今までの話を聞いていたのだろう。

 一同の賛成を受けた花は更に瞳を輝かせると、もう一度政宗の顔を覗き込んだ。


「ねぇ、政宗。どうかな?」

「……話はわかった。だが、そんなことしたところで、あの頑固親父が話を聞くかどうかはわからねぇぞ?」

「うん。でも、やってみなきゃわからないでしょ? 私達は最後まで政宗の味方だし、ふたりが話し合えるように精一杯協力するから、みんなで縁日作戦やってみようよ!」


 花の眩しい笑顔を見た政宗は、一瞬言葉を失くしてからフッと力が抜けたように破顔した。


「フッ……ハハッ」

「政宗?」


 突然笑い出した政宗の頬が赤い。

 耳にもまた淡い赤が差していたが、それは先程とは違って、胸の高鳴りと連なる色に違いなかった。

 
「……もう、好きにしろ」


 投げやりな言葉には、これまでの政宗にはなかった他者に対する信頼が含まれている。

 それに気づいた花は嬉しそうに八雲を見上げ、久しぶりに花の心からの笑顔を見た八雲もまた、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。