「その様子では、神力さえ戻れば問題なく動けそうだな」


 歩を進めた八雲はそれだけ言うと、枝に止まる蝶のように、とても静かに花の隣に腰を下ろした。

(み、右側が異常に熱い……。というか、いつから話を聞かれていたんだろう)

 意識すればするほど、花は八雲の方を見られなくなってしまう。

 対する八雲も敢えて花のほうを見ようとはせず、膝の上で拳を握って、雑念を払うように政宗を見据えていた。


「……なんだかなぁ」


 そんなふたりの機微に目敏く気づいた政宗は、居心地が悪そうに溜め息をついて目を閉じる。 


「お前らも、俺と親父も、結局は"キッカケ"が必要なんだろうなぁ」

「……キッカケ?」


 つぶやかれた言葉に、花と八雲の声が重なった。

 政宗は改めてふたりを見ると、呆れたように目を眇めた。


「だから。さっきテメェが言ったとおり、もう一度話し合う場合も、お互いに腹を割って話せるようなキッカケさえあれば、何か状況が変わるんじゃねぇかと思っただけだ」


 ──お互いに腹を割って話せるようなキッカケ。

 そういえば約一ヶ月前、つくもを訪れた付喪神の夫婦を仲直りさせるために、花たちはキッカケ作りに励んだのだ。

(確かあのときは、いつもとは少し違った環境にしようって話してて……)

 つくもでは初めての、朝食を現世(そと)で食べるという策に打って出た。

 結果としては、いろいろなハプニングはあったが大成功に終わったのだ。

(もしもあのふたりみたいに、政宗親子もいつもとは違った環境で話し合えれば、何か変わるのかも?)

 感情的にならず、お互いの話にきちんと耳を傾けられるかもしれない。


「あ……」


 と、そこまで考えた花は、不意に閃き声を上げると、瞳を輝かせながら八雲と政宗を交互に見た。