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「ここ、は…………?」
「あ! 政宗、目が覚めた?」
それから四日が過ぎた頃、まずは政宗が先に目を覚ました。
「おま、えは……ってことは、まさかここは、あのボロ宿じゃ──」
「ああ、ダメダメ! そんな急に身体を起こしちゃ! まだ神力も完全に戻ったわけじゃないみたいだし、もう少し寝ていなきゃ!」
起き上がろうとした政宗を花が慌てて止めれば、まだ身体の自由が効かない政宗は仰向けのまま不本意そうに小さく呻いた。
「なんで俺はまた、つくもなんかに……」
「ニャン吉殿が、政宗坊を担いでつくもに戻ってこられたのですよ」
「ニャン吉が……?」
「はい。酷い雨の中、動けなくなった政宗坊をひとりで背負って、ここまで必死に帰ってこられたのです」
花と一緒にいた黒桜が状況を説明すれば、政宗は眉をひそめて難しい顔をした。
「それが本当だっていうなら、その肝心のニャン吉は今どこにいる?」
「ニャン吉くんは疲れきってて、今はまだ寝てるの。神力が完全に戻るまでには、あと一日は眠り続ける必要があるってぽん太さんが言ってたから、今日はこのままそっとしておいてあげて」
政宗よりもニャン吉のほうが重症だったのだ。
花は手桶の水で手早く手ぬぐいを絞ると、そっと政宗の額の汗を拭った。
「──っ、やめろ! 俺はもう、ここで世話になる義理はねぇ!」
けれど、そんな花の手を振り払おうと政宗が吠える。
ただ、神力が回復しきっていないせいで咆哮は弱々しく、花は一瞬あっけに取られたあとで息を吐くと、改めて政宗の横で姿勢を正した。
「あのさ。そうやって、いつまで意地を張ってるつもり?」
「なんだと……?」
「相手を必要以上に威嚇して、自分から遠ざけて……。挙句に、ひとりで勝手にここを飛び出して行って、ニャン吉くんを困らせた上に守られて、ニャン吉くんはそのせいで今もまだ眠ってるんだよ?」
花が諭すように政宗に問い掛ければ、政宗は罰が悪そうに顔を横に逸らした。
「それは……全部、あいつが勝手にやったことだろう」
「うん、そうだね。多分ニャン吉くんも、自分が勝手にやったことだって政宗のことを庇うと思う」
「だったら……っ!」
「でも! ニャン吉くんだけじゃなく八雲さんだって、神成苑に連れ戻されそうになった政宗を、つくもで面倒見るって言って庇ってくれたんだよ?」
「八雲の野郎が、俺を庇っただと……?」
「そうだよ。それ以外にもぽん太さんだって、戻らないふたりのために、熱海の知り合いに声をかけてくれてたんだから……」
これはあとあと黒桜から聞かされたことなのだが、ぽん太は政宗たちが飛び出して行った日の夜には、ふたりが現世に出たことに気がついていたらしい。
『なので、熱海に住む神々やあやかしの知り合いに、ふたりを見かけたらつくもへ導いてくれるようにと頼んでいたのですよ』
だからぽん太はふたりを心配する花に、「大丈夫」だと言っていたのだ。
花に詳しい事情を説明しなかったのは、ふたりが現世に行ったと聞いたら、花は絶対に探しに行くと言ってきかなかっただろう、と予想したかららしい。