「でも、偶然それを見つけた政宗しゃまが、僕を揶揄っていたみんなを怒ってくれて……」


 政宗は、くだらないイジメをしていたものたちを一から指導し直し、ニャン吉を自分の補佐に置くことで、ニャン吉の立場を守ってくれたという。


「はじめ、僕では政宗しゃまの補佐は務まらないと言ったのですが、弱気な僕に政宗しゃまはハッキリと言ったのです……」


『務まるか務まらないかは俺が判断することだ。仮にもし務まらなかったとしたら、それは俺の指導力のなさが原因で、お前のせいじゃねぇよ。だからお前はこれまで通り、仕事に励め』


「涙が出ました……。それと同時に、僕は、一生この人のそばにいたいと思ったんです。政宗しゃまが僕にしてくれたように、どんなときでも、僕だけは政宗しゃまの味方でいようと……そう、心に誓ったのです……」


 そこまで言うとニャン吉は、当時を思い出したように、とても柔らかに微笑んだ。

『くだらねぇ! 神力が強かろうが弱かろうが、根性が曲がっていたらただのクズだ!』

 神成苑での政宗は、ニャン吉に限らず、すべての従業員に対して平等だったということだ。

 長年、神成苑に仕えていて古参ぶっていようが、神力が強かろうが、位の高いあやかしであろうが……。

 あの堂々とした振る舞いで間違っていることは間違っていると指摘し、それぞれの良いところを引き上げられる関係作りに努め続けてきたらしい。


「だから政宗しゃまは……本当は、すごく心の優しいお方なんです……。優しすぎるが故に、大女将しゃまのことで、大旦那しゃまとぶつかってしまって……。本当は政宗しゃまも、神成苑のことをとても大切に……思っていらっしゃるんです…………」

「ニャン吉くん⁉」


 と、そこまで言ったニャン吉は、まるで糸が切れたように口を噤んだ。

 同時に、規則正しい寝息が聞こえてきた。


「どうやら眠ったようじゃのぅ。つくもに戻ってきたことで、安心したんじゃろう」


 そうしてふたりのやり取りを静観していたぽん太は、改めて政宗とニャン吉の様子を確認した。


「ふむ。ふたりとも怪我をしているわけではないし、今は、このままゆっくりと寝かせてやるのがよいじゃろう」

「で、でも、寝かせるって、それだけで大丈夫なんてすか⁉」

「ああ。しばらくは眠り続けるじゃろうが、ここは現世と違って空気自体に神力が満ちておるんじゃ。ニャン吉は器が壊れておるわけではなく、単に神力が尽きてしまっただけじゃし、同じく神力の尽きた政宗と共にここで休んでおれば、ふたりとも自然に回復していくから安心せい」


 説明を聞いた花は、思わずホッと胸を撫で下ろした。

 政宗とニャン吉は、花の腕の中でスヤスヤと眠っている。


「とはいえ、しばらくは看病が必要だがなぁ」

「看病なら、私がやります! 任せてください!」


 元気よく答えた花はふたりを抱えたまま立ち上がると、急いで従業員スペースにある部屋へと運んだ。

 今日もつくもは客神の予約で埋まっている。

 それでも花は仕事の合間を縫ってふたりのもとへと通い、ふたりが目を覚ますまで懸命に看病し続けた。