「政宗とニャン吉くんは、本当に大丈夫でしょうか」


　空から垂直に落ちてくる、蜘蛛の糸のような雨が景色を物憂げに彩っている。

　六月も半ばを過ぎたが梅雨があける気配はなく、今日も長雨が現世と狭間を濡らしていた。

　政宗とニャン吉がつくもを飛び出してから、早一週間と五日。

　あれ以来、音沙汰ないふたりに、花はもうずっと気を揉んでばかりいた。


「やっぱりふたりに、何かあったんじゃないでしょうか？」


　すっかり綺麗に片付いた玄関ホールで眉尻を下げた花は、仕事の合間に宿の外を確認しては落ち着かない様子でぽん太に尋ねた。


「もしもどこかで行き倒れてたり、神隠しにあってたら……」

「花よ、昨日も一昨日も言ったじゃろぅ。あやつも一応、かの龍神の血を引く男じゃ。人のように狭間で神隠しにあったりはせんし、ニャン吉もそばについておるのだから、ニャンとかにゃるというやつじゃ」

「こんなときに笑えないギャグやめてくださいよ……」


　呑気なぽん太の言葉に、花は脱力しながら息を吐いた。

　ふたりの行方がわからず不安を募らせる花とは裏腹に、ぽん太は動じる気配もなくお茶をすすりながら、ふよふよと宙に浮いている。


「っていうか、ぽん太さんは、どうしてそんなふうに落ち着いていられるんですか？　ふたりが今どこで何をしているのかサッパリわからないんだから、心配になるのは当たり前なのに──」


　と、花がもう何度目かの苦言を呈そうとしたら、


「た、ただいま、戻りました……です……っ」


　不意に、雨音にもかき消されそうなほどのか細い声が耳に届いて、花は反射的に言葉を止めて振り返った。


「え……」


　見れば玄関前に、小さな龍を背負ったニャン吉が立っている。


「ニャン吉くん……!?　と、もしかして、それって政宗!?」


　小さな龍の姿になった政宗は、グッタリとしていて意識がない。

　ニャン吉も見るからに衰弱した様子で、真っ白でふわふわだった毛は濡れそぼり、あちこち泥で汚れて土色に染まっていた。