「では、せっかくなので今日は、みんなでつくもの庭の前で食べましょうか」

「わっ、いいですねそれ!」

「そして食べ終えたらすぐにでも、玄関ホールの片付けを始めましょう。……というわけで、八雲坊、どうでしょうか?」


 唐突に黒桜に話を振られた八雲は一瞬虚をつかれた顔をしたあと、思わずといった様子で花へと視線を滑らせた。

 八雲と目が合った瞬間、花の胸の鼓動がドキン!と跳ねる。

『八雲坊のお嫁様は、現世に帰りたいと願った大女将様のお気持ちがよくわかるということだわいな?』

『今からそのように中途半端なお気持ちでおられるようでは、いずれ、うちの大女将様と同じ末路を辿ることになる』

 花の頭の中に、先ほど黒百合に言われた言葉が蘇る。

 ──花はこの先、どうなりたいのか。

 自分はこのまま本当に、ここでただ八雲の偽物の嫁候補として仲居を務め続けていいのか、花の心には大きな迷いが芽吹いていた。


「……ああ、いいだろう。黒桜の言うとおり、朝食を食べ終えたらすぐにここの片付けを始めよう」


 けれど、答えはそう簡単には見つかりそうもない。

 八雲の返事を聞いた一同は、庭がよく見える場所に手際よく茣蓙(ござ)を広げると、その上に海鮮丼を並べた。


「花! 早く、こっちだよ!」


 ちょう助が立ち止まったままの花に明るい声をかける。

 それにハッと我に返った花は顔を上げると一度だけ首を横に振り、小走りで一同のもとへと駆け寄った。