「……昔のこと、話してくださってありがとうございました。黒桜さんが今、つくもを愛していることも、大切に思っていることもすごく伝わりました」
花はそう言って笑ったあと、龍に姿を変えてつくもを飛び出していった政宗のことを思い浮かべた。
「でも、政宗は……今のままじゃ、きっと辛いだけですよね」
今の政宗は、苦しみと怒りの渦に心を囚えられてしまっている。
花の言葉に、ぽん太は「ふぅむ」と唸ると、肉球で自身の顎をそっと撫でて宙を見上げた。
「花には先ほど話したが、政宗は若旦那としての技量は申し分ない男だと、以前、政宗の父である光秀は言っておったんじゃよ」
「えー、あれで?」
思わずといった様子で口を挟んだのはちょう助だ。
しかし花はここ二週間の政宗の働きぶりを思い出して、納得する部分がいくつもあった。
「そうじゃのう。ニャン吉を見てわかるとおり、従業員の多くが政宗を頼りにしていたということじゃ」
つまり、神成苑で政宗は人望の厚い男だったというわけだ。
政宗は口も態度も偉そうだが、以前、ニャン吉が花の部屋で泣いているのを見たときに、花がニャン吉を裏でイジメていたのだと勘違いして激高したことがある。
あのとき花は政宗の変貌に驚き、そのことについて深くは考えなかったが、改めて考えるとあれは政宗なりにニャン吉を大切に思っているからこその反応だったに違いない。
「もし、今のぽん太さんの話が本当なら、政宗も本当は、自分が生まれ育った神成苑を大切に思ってるんじゃないでしょうか?」
花が思ったことを口にすると、
「でも、お母さんのことや、大旦那様との確執、それらを含めた色んなことのせいで政宗自身も悩んでるってこと?」
ちょう助がすぐさま反応して言葉を添えた。
「うん。きっと政宗も葛藤してるんじゃないかな……」
期間限定な特例だとしても、仮にも政宗はつくもで一緒に働く仲間だ。
(何か、政宗の力になれたらいいけど……)
しかし政宗側は、花たちを全力で拒絶している。
先ほどのように神楽を褒めただけで激高されるようでは、何を言ったところで政宗の心に響くことはないだろう。