「神楽って、神様の前で踊ったりするあれだよね? 政宗、神楽が踊れるなんてすごいね!」
花は声を弾ませると、改めて政宗へと目を向けた。
政宗が来てからというもの、花は驚かされることばかりだ。
「なんだかんだ政宗って、ご両親にとっては自慢の息子なんじゃない?」
宿の仕事もそつ無くこなし、実は細かな気が利いて、神楽も舞える。
しかし花の賛辞を聞いた政宗は、カッ!と目を見開くと何故か野良犬が威嚇するように声を荒げた。
「うるせぇ! 俺は舞いたくて舞ったんじゃねぇ! テメェに俺の、何がわかるっていうんだ!」
「え……」
ビリビリと空気を震わせるような叫びに、その場にいる全員が思わずといった様子で口をつぐんで押し黙る。
「あんな奴に、自慢だなんて思われてたまるかよ! 親父はくだらねぇ仕来りに縛られて、本当に大切なものすら見えなくなっているような馬鹿な男だ!」
続けて放たれた政宗の主張には、政宗の抱える苦しみの片鱗が垣間見えた気がした。
「俺はあの親父が許せなくて今、ここにいる! バカなテメェは、そういう俺の想いなんてまるでわかってないくせに、くだらねぇことを簡単に言いやがって……っ」
「ま、政宗……?」
咆哮と同時に、またザワザワと政宗の髪と瞳が赤く色づき始めた。
花はすぐに、政宗の身体が以前と同じように龍神の姿に変貌しようとしているのだと察した。
同時に、思わず後ろに足を引こうとしたが、震えのせいで思うように動くことができなかった。
「ぐるルルルルル………ッ」
「政宗坊、怒りに心を囚われてはなりません! どうか落ち着いてください!」
咄嗟に止めに入ったのは黒桜だ。
けれど政宗は、そんな黒桜の身体を鋭い爪の生えた手で勢い良く薙ぎ払った。
「ぐ……っ」
「きゃっ……黒桜さん!?」
政宗の爪が、黒桜の黒い着物の袖を僅かに裂く。
間一髪、ひらりと後ろに飛んだ黒桜は政宗から傷を受けずに済んだが、同時に前に出ることもできなくなった。
「政宗坊、いけません……っ。このままでは、何ひとつとして良い方向には進みませんっ」
「黙れ、黒桜! テメェも本当は俺と同じように、こんなところにはいたくねぇと思ってんだろうが⁉ 冷静な顔して、良い子ぶってんじゃあねぇぞ!」
「……っ、」
政宗の叫びに、今度は黒桜の瞳がハッキリと揺らいだ。
(黒桜さん……?)
何かを堪え、迷い苦しむその様子に、花は思わず黒桜のそばに寄ろうと足を前へと踏み出した。
「──何事だ」
しかし、既のところで凜とした声が響いて、花はその場に踏みとどまる。
振り返れば、そこには八雲が立っていた。
つくもの料理長であり、包丁の付喪神であるちょう助も一緒だ。