「そういうわけじゃ、政宗。お前さん自身のためにも、今の花の言葉は胸に留めておくべきじゃな」
言い添えたのはぽん太だ。
政宗はぽん太のその言葉を聞いた直後、強く拳を握りしめると踵を返して、その場を立ち去ってしまった。
そんな政宗の背中を、ニャン吉がちょこちょこと必死に足を動かして追いかける。
「ちょ、ちょっと言い過ぎましたかね……」
ふたりの姿が完全に見えなくなったあと、今更バクバクと高鳴りだした心臓の音を聞きながら、花がぽつりとつぶやいた。
「そんなことはない。お前が今言ったことは、誰かがアイツに言ってやらねばならぬことだった」
「八雲さん……」
「そうだよ! 花のことブスだとか言ってさ! 俺だって、もうずっと腹が立ってたんだから!」
プンプンと頬を膨らませたちょう助は、珍しく声を荒げながら息巻いた。
「花さんの言葉はきっと、政宗坊にも届いておりますよ」
「黒桜さん……。そうでしょうか?」
「ええ、きっと。……きっと、届いておりますとも。だから花さんは、どうか堂々としていてください」
穏やかな黒桜の笑顔を見た花は、ホッと小さく息を吐く。
黒桜の言うとおり、政宗に花の思いやみんなの思いが届いていればいい。
(それで少しでも、政宗が前向きになれたらいいけど……)
花は心の中で願いながら、胸の前で強く拳を握りしめた。