「花?」
「ふぅ……。もうなんか、色々我慢するのが面倒くさくなってきた」
「あ?」
「ムーンテラスでトンビを追い払ってくれたときは一瞬見直しかけたけど……。もうなんか、色々限界。堪忍袋の緒が切れるって、このことかも」
そこまで言うと、花は背の高い政宗を下から強く睨みつけた。
これまでにない雰囲気に、一瞬、政宗が気圧される。
花は堂々と仁王立ちしたまま、スゥッと息を吸い込むと、腰に手を当てビシッ!と政宗の胸に人差し指を突き立てた。
「政宗! あんた、ほんとにやる気あるの!?」
「な、なんだと?」
呼び捨てにされ、政宗があからさまに怯む。
「任された掃除は手抜き、接客態度は最悪、お客様の前でも関係なく悪態はつく、接客業なのに言葉遣いと態度が最低最悪……って、現世ならとっくの昔にクビだからね!」
マシンガンのごとく言葉を放った花は、これまでの鬱憤を晴らすかのように、フンッ!と鼻を大きく鳴らした。
「な、なんで俺がテメェにそんなことを言われなきゃならねぇん──」
「そんなこと!? って、すごく大切なことでしょ!? そんなこともわからないんだとしたら、現世でひとりで生きていくなんて絶対に無理だから!」
断言した花は、更に深く眉根を寄せた。
ニャン吉の献身的な姿勢や、八雲のこと。
加えて、龍神の姿に変貌しようとした政宗に怯えて、今の今まで言いたいことも言えずにいたが、もう何もかもどうでもいい。
(大体さ、政宗は家将さんと駒代さんが上手くいかないんだから、私と八雲さんも上手くいかないって言ったけど、結局家将さんと駒代さんはラブラブだったじゃない!)
だから自分と八雲のことも、政宗にとやかく言われる筋合いはない──という言葉は、八雲の目の前なので口にはできない。
「政宗は、ここでしっかり頑張らなきゃ、自分の夢を叶えられないんでしょ⁉ 人のことをブスだなんだ言う前に、もっと自分を見返してみるべきなんじゃないの!?」
花が再びビシッ!と指を突き立てると、とうとう政宗が黙り込んだ。
「いつまでも周りに甘えてないで、いい加減、周りに迷惑をかけるような振る舞いは止めたら⁉」
「お、俺がいつ、周りに迷惑を──」
「かけてないとは言わせないから! 私はともかく、ニャン吉くんは政宗のために一生懸命頑張ってくれてるのに、肝心のあなた自身が変わろうとしなくてどうするのよ⁉」
休むことなく言い切った花は、腕を組んで鼻を鳴らすと背の高い政宗を下から睨んだ。
政宗は目を見開いたままで、怒れる花を呆然と見つめている。
「……くっ」
と、そんな花の背後に立っていた八雲が、喉を鳴らして笑った。
ぽん太はにこやかな笑みを浮かべ、黒桜とちょう助は清々しい表情で啖呵を切った花のことを見ている。
「ごめんね、ニャン吉くん。今朝言ったことは、やっぱりニャン吉くんじゃなくて、政宗本人に言わなきゃ意味がないことだったね」
ふたりのやり取りをオロオロとしながら見つめていたニャン吉に、花は穏やかに声をかけた。
するとニャン吉は大きな目を潤ませたあと、フルフルと必死に首を横に振った。