「しかし、どうして喧嘩なんてしておったんじゃ?」


 いざ!と、切り込んだのはぽん太だ。

 ぽん太の質問にふたりは顔を赤くして俯いたあと、照れ笑いを浮かべながら、律儀に理由を話してくれた。


「実は、旅行のお土産をつくもに泊まる前に買うか、泊まったあとに買うかで揉めまして」

「え?」

「泊まる前に買ったほうが心に余裕ができていいだろうと言う自分と、泊まったあとのほうがお土産感があっていいだろうと言う駒代とで意見が割れて喧嘩になったのです」


 家将の返答に、その場にいた全員が心の中で「そんなくだらないことで?」とツッコんだ。


「く……っだら──」

(言わせないよ⁉)


 瞬時に反応した花が、政宗の口を両手で塞いだ。

 政宗は嫌悪している花に止められ不本意な顔をしていたが、せっかく良い空気になったところを壊されたらたまらない。

 当の家将と駒代は、「本当に申し訳ありませんでした」と小さく笑った。


「まぁ、喧嘩をするほど仲が良いとも言うしのぅ」

「いやはや、つくもさんには今回は色々とご迷惑をおかけしてしまい、お恥ずかしい限りです」

「でも、皆さんのおかげでとても良い旅の思い出ができました。サバサンド、とってもおいしかったです。本当に、ありがとうございました」


 そうして家将と駒代は再度頭を下げると、前評判通りに仲良く手を繋ぎながら、つくもをあとにした。


「ふぅ……」

「おい! 女! テメェ、ただの人間の分際で、俺様の口を押さえてんじゃねーよ!」


 と、安堵の息を吐いた花の横で吠えたのは政宗だ。


「ダ、ダメですよ、政宗しゃま!」


 ニャン吉が慌てて止めに入るが、政宗は気にすることなく花を強く睨みつける。


「大体、朝飯を外で食べるってなんだよ。チープな案を出しやがって! ブスが調子に乗って、しゃしゃり出てんじゃねぇよ」

「おい、政宗。それ以上、花を貶めるようなことを言うなら──」


 続けられた暴言に対して、いよいよ持って八雲が政宗を咎めようと動いた。

 しかし、そんな八雲の前に立った花は、八雲を手で制すと背筋を伸ばして政宗を見つめ返した。