「ちょっと、政宗さん──」
「──テメェら、誰に手を出してんだ」
「え……?」
「今すぐ去れ! 頭の上をチョロチョロされたら鬱陶しいんだよ!」
そして次の瞬間、政宗はカッと目を大きく見開いた。
瞳は今朝、花が見たときと同じように、燃えるような赤に色付いている。
「あ……」
「ケッ。ほんとくだらねぇ。あー、腹減った」
そうして再び政宗は踵を返すと、そばのベンチに無造作に腰を下ろした。
ハッとして花が再度空を見上げれば、頭上を旋回していたトンビは遥か遠くへとその姿を消していた。
「政宗さん、もしかして、今……」
「ありがとう。私達が安心して食事ができるように、トンビを追い払ってくださったのね」
「……ケッ」
駒代が感謝の言葉を述べたが、政宗はそっぽを向いたまま答えようとはしなかった。
(ただの最低最悪な嫌な奴かと思ってたけど……)
もしかしたら、案外いいところもあるのかもしれない。
「おいブス! ボーッとしてねぇで、新しいものを出せ! 役立たずも極めたら、個性になるとか勘違いしてねぇだろうな」
「……前言撤回」
一瞬でも、見直しかけたのが馬鹿みたいだ。
傍若無人な物言いに花は絶句したが、確かに政宗の言うとおりではあるので、すぐさま新しいサバサンドを用意して駒代に渡した。
「ありがとう」
そうして七人でベンチに腰掛け、みんなでサバサンドを頬張った。
家将と駒代は、ときどき顔を見合わせ笑い合っている。
その様子を花がコッソリと眺めていると、隣に座っていたぽん太が茶をすすりながら、
「仲直り大作戦、大成功じゃな」
と言って、静かに笑った。
* * *
「この度は、本当にありがとうございました」
ムーンテラスで朝食を食べ終え、つくもに戻ってきた家将と駒代は、残り僅かな滞在時間を同室で過ごした。
そして帰り際にはすっかりと仲直りした様子で、手を繋ぎながらつくもの一同に深々と頭を下げた。
「おかげで、今回の旅が嫌な思い出にならずに済みました」
いい年をして申し訳ない、と言い添えた家将は、困ったように頬をかく。