「す、すみません! 私が外で朝食を食べようなんて提案したせいで、駒代さんにお怪我をさせてしまって……!」

「大丈夫だ。今すぐ癒そう」

「え……?」


 けれど慌てふためく花とは裏腹に、冷静に答えた家将は、駒代の手をそっと優しく包み込んだ。

 そして家将が何かを唱えると、駒代の手にできたばかりの傷がみるみるうちに癒えていく。


「連理の枝じゃのぅ」

「連理の枝、ですか?」

「ああ。男女の仲睦まじいことのたとえじゃ。お互い無くてはならぬ存在だからこそ、なせる神術というわけじゃ」


 ぽん太の言葉に花がキョトンとして固まっていると、


「傷を癒やす神術は、お互いの心が深く結び合っていないと施せないものなのですよ」


 と、黒桜が丁寧に説明してくれた。

(心が深く結び合っていなければ施せない術……)

 つまり、ふたりは互いに相手を思い合っているということだ。


「……ありがとう」

「いや、酷い怪我にならなくてよかった」


 傷の癒えた手を撫でながら、駒代がほんのりと頬を赤く染めた。

 家将はそんな駒代を愛おしげに見つめながら、安堵の息をついていた。

(ああ、きっともう、大丈夫)

 ふたりのやり取りを見ながら、花も心の中でホッと息を吐く。


「ケッ! くだらねぇー」

「ま、政宗しゃま……っ。そんなことを仰ってはなりません……!」


 けれど、ようやく穏やかさを取り戻した空気を、政宗が再び脅かす気配がした。


「す、すみません。先程からうちの従業員が失礼なことばかり言って──」


 花は慌てて家将と駒代に謝り頭を下げようとした。

 しかし、政宗は相変わらず悪びれる様子もなく、あろうことかふたりの前に立つと、徐に空を見上げた。