「うまい……っ!」

「おいしい……っ!」


 ふたりが声を上げたのは同時だった。

 鯖の干物とパン。一見合わないように見える組み合わせだが、これが一緒に食べると抜群のおいしさで、お互いの良さを最大限に引き出す一品に生まれ変わる。


「鯖の干物とバケットの相性がすごくいいですよね!」


 花が前のめりになって声を弾ませれば、


「まるで、どこぞの夫婦のようじゃのう〜」


 と、ぽん太がすかさず後押しした。

 そうすれば今度こそしっかり、ふたりが互いに目を見合わせる。

 そして困ったように照れ笑いをしたあとで目を逸らすと、言葉を交わす代わりにもう一口サバサンドを食べようと手を動かした。


「あ……っ‼」


 そのときだ。

 駒代のすぐ横を、黒い影が通り抜けた。

 一瞬のことに誰もが固まったまま動けず、気がついたときには駒代が手にしていたサバサンドの欠片が、地面に転がり落ちていた。


「だ、大丈夫か駒代……っ!」


 一番に声を上げたのは家将だ。

 その声にハッと我に返った一同は、慌てて何が起きたのかを確認する。


「トンビじゃな」

「トンビ?」


 ぽん太の言葉に驚いて上を見れば、大きく羽を広げたトンビが頭上で旋回していた。


「熱海サンビーチあるあるじゃよ。ここで食べ物を食べていて、気を抜くとトンビに掻っ攫われる」


 当たり前のことのようにぽん太は言ったが、それならどうして最初に注意事項として伝えてくれなかったのかと花は心の中で抗議した。


「ごめんなさい、私ったらせっかくの朝食を台無しにしてしまって……」


 転げ落ちたサバサンドを、またトンビが狙いに来ないようにニャン吉が急いで片付けた。


「そんなこと、お気になさらないでください! それよりお怪我は……あっ」

「これは……爪が引っ掛かったのか、少し切れてしまっているな」


 家将の言葉の通り、駒代の白い手の甲には赤い引っかき傷がついていた。

 それを見て、花の顔がサーッと青ざめる。