「こちらは、つくも特製サバサンドです!」

「サバサンド……?」


 家将と駒代の声が重なった。

 ふたりはまたハッとして互いに目を見合わせたあと、ほんの少しだけ気まずそうに視線を逸らした。


「はい。サバサンドは熱海のソウルフードのひとつで、天日干しした鯖の干物を、カリッと焼いたフランスパンに挟んだものなんです」


 使っている鯖の干物は、元々朝食で出す予定のものだったとちょう助が語っていた。


「間には、レタスとオニオンスライスも挟んであります! どうぞ、召し上がってみてください!」


 サバサンドを花がふたりに手渡すと、ふたりは戸惑いながらも包み紙を開けていった。


「鯖の干物とパンを一緒に食べるなんて初めてだわ……」

「ああ、干物は白米と一緒に食べるというのが当たり前だと思っていたからなぁ」


 家将が口にした言葉と全く同じことを、今朝、花もちょう助にこぼしていた。


「でも……すごくいい匂い」


 鯖の干物の香ばしい匂いと、パンの優しい香りが鼻孔をくすぐる。

 少しの間、ジッとサバサンドを見つめていたふたりが、ゴクリと喉を鳴らしたのがわかった。

 そして、口の前に持ってくるまでは遠慮がちに、しかしいざ食べるときには大胆に口を開けて、ふたりはサバサンドを頬張った。


「は、む……っ」


 ザクリッ!と小気味よいフランスパンの音が鳴る。

 ふたりが口を動かせばジュワッと鯖の干物から旨味の詰まった脂が溢れ、思わず花の喉がゴクリと鳴った。

(ああ……っ!)

 花は朝イチでちょう助からサバサンドの味見をさせてもらったときのことを思い出した。

 噛めば噛むほど、鯖の干物の丁度いい塩気と脂の旨味が口の中いっぱいに広がっていく。

 そして、その旨味を吸ったバケットが、これまた最高においしいのだ。

 ほんのりと甘みのあるバケット。間に挟まれたレタスとオニオンスライスが、鯖の脂を中和してしつこくさせないところがまた良い役割をしていた。