「家将と駒代のことは、わしも驚きを隠せんよ。何が原因で今のような状態になったのかはわからんが、何かふたりの気持ちが切り替わるようなキッカケがあるといいんじゃがのぅ」
「ふぅむ」と顎に肉球を添えたぽん太は、ふよふよと宙に浮いたままで天を仰いだ。
(何か、ふたりの気持ちが切り替わるようなキッカケ……)
今はふたりとも、お互いの顔など見たくはないというほど険悪な状態だ。
けれどぽん太の言うとおり、何か仲直りのキッカケとなるようなことをこちらが提供できれば、少しでもふたりが歩み寄ってくれるかもしれない。
「あ……そうだ。それなら明日の朝食は、外に食べに行くとかどうでしょうか?」
「朝食を外でとな?」
「はい。ほら、ピクニックとかっていい気分転換になるし……。そんな感じで、明日はこちらが用意した朝食を客室ではなく外で……現世の熱海で、みんなで一緒に食べるっていうのはどうかなって思ったんですけど」
はたと思いついたことを口にした花は、自分の子供の頃を思い出した。
花は七歳で母を亡くしたあと、父に男手ひとつで育てられたのだ。
しかし父は不器用な人で、些細なことで喧嘩になることも多かった。
そんなとき、父は決まって花をピクニックに誘ったのだ。
ピクニックと言えば聞こえがいいが、実際は父が作った巨大なおにぎりを持って、近くの公園のベンチで食べるという仲直りの儀式のようなものだった。
「ほんの少し環境を変えてみたら、お互いがまた話し合えるキッカケになるんじゃないかなって思って」
「なるほど。朝食を外でみんなでかぁ。確かに良い気分転換にはなるよね。それで花の言うとおり、ふたりが話し合えたら何か変わるかもしれないし!」
花の提案を聞いたちょう助は、パアッと表情を明るくした。
「ふむ……確かに。いいかもしれんの。ついでに熱海を満喫しつつ、外で朝食を食べられる場所……といえば、わしのオススメの場所もある。よし! そうと決まれば、早速八雲にも話してみるかの」
ポンッ!と笑顔で腹太鼓を叩いたぽん太は、すぐさま八雲に相談するべく厨房から姿を消した。
「ふたりが、了承してくれるといいんだけど……」
不安げに、花がつぶやく。
「大丈夫だよ! ふたりに喜んでもらえるように、俺も外で手軽に楽しく食べられる朝食を考えて、バッチリ用意するからさ!」
「ちょう助くん……」
「だから花も、元気出して! 花はひとりじゃないからね。俺も一緒に頑張るから!」
太陽のようにまぶしい笑顔が、花の不安を拭ってくれた。
花はやわらかに目を細めてちょう助を見ると、「ありがとう」と応えて、穏やかに微笑んだ。