「……手、繋いでなくね?」
ぽつりと呟いたのは政宗だ。
その声は家将と駒代の耳には届かなくとも、つくもの面々にはしっかりと届いていた。
(な、なんで?)
しかし、誰ひとりとして政宗の言葉に返事をするものはいない。
政宗の言うとおり、ふたりは手を繋いでいないどころか、人ふたり分は距離を開けて歩いてくる。
ぽん太の前情報では『つくもに訪れるときはいつも手を繋いで寄り添い合っている』はずなのに、会話もせず、お互いに難しい顔をしながらつくもの玄関までやってきた。
「いらっしゃいませ。本日はつくもにお越しくださり、ありがとうございます」
事態の把握ができずに固まっていた面々を尻目に、宿の主人である八雲だけがいつも通りの落ち着いた様子でふたりを迎え入れた。
慌てて我に返った花やその他のものたちも、「いらっしゃいませ」と口にしてから深々と頭を下げたが、疑問が頭の中を渦巻いている。
「本日は、よろしく頼みます」
まず、応えたのは家将だ。
発せられた言葉は端的で、どこか不機嫌さを滲ませていた。
「早速ですけれど、ひとつお願いがございますの」
続いて、駒代が淡々とした口調で言葉を紡いだ。
「はい、なんでございましょう」
「今日、私達が宿泊予定の部屋を別々にしていただきたいの」
「お部屋を別々に、ですか?」
「ええ。我儘を言ってしまって申し訳ないのですけれど、今からもう一部屋、ご用意していただくことはできるかしら?」
思いもよらない駒代の注文に、さすがの八雲も一瞬返事に迷ってしまった。
対して、片眉を上げ、驚いた顔で駒代を見た家将は、カッ!と顔を赤らめ反論する。
「お前、そんなことを今からお願いするなんて、我儘にもほどがあるだろう?」
「あら、失礼しちゃう。私はただ、他に部屋が空いているのなら、私達の部屋を分けていただきたいと希望を口にしただけよ」
駒代は早口で答えたあと、素知らぬ顔でそっぽを向いた。
そんな駒代を前に家将は更に怒りで顔を赤らめたが、当の駒代はまるで動じる様子はない。