「ぽん太しゃま! 今日のお客しゃまについて、もう一度説明していただいてもよろしいですか?」
そのとき、不意にニャン吉が口を開いた。
ハッとして花が顔を上げれば、相変わらず不機嫌そうな政宗の隣で、ニャン吉が元気いっぱいに両手を挙げている。
「すみません、昨日もご説明いただいたのですが、今一度確認をと思いまして……」
「おお、よいぞ。ではでは、早速。今から泊まりに来るのは将棋盤と将棋の駒の付喪神の夫婦での、それぞれ名を"家将"と"駒代"というんじゃ」
「家将しゃまと、駒代しゃまですね!」
熱心にぽん太の話を聞くニャン吉を横目に、花は予め聞かされていたふたりのことを思い浮かべた。
将棋盤の付喪神の家将と、将棋の駒の付喪神の駒代は、徳川が治めた江戸時代に婚礼調度品として作られたもので、普段は共に博物館に展示されているらしい。
付喪神だけあって、歴史的な価値のあるものだ。
同時に、ふたりはとても仲の良い夫婦で、つくもに訪れるときはいつも手を繋いで寄り添い合っているということだった。
「きっと、素敵なご夫婦なんでしょうね」
「うむ。こちらが胸焼けしそうになるほど、仲睦まじいふたりでのぅ。婚礼調度品らしい夫婦じゃよ」
思わず顔をほころばせた花に応えるように、ぽん太は穏やかな笑みを浮かべた。
「ケッ、くだらねぇ。何百年も生きてるくせに、いつまでも色気づいてるなんてどうかしてるぜ」
対して、苦々しい表情で毒を吐いたのは政宗だ。
花は家将と駒代に会えることを密かに楽しみにしていたので、反射的に深く眉根を寄せてしまう。
「ま、政宗しゃま! お客しゃまのことをそのように言ってはなりません!」
「……別に本人たちの前で言ったわけじゃねぇし、良いだろう」
ニャン吉は慌てて政宗を諌めたが、政宗は反省するどころか開き直る有様だ。
「政宗さん、さすがに今のは──」
黙っていられなくなった花は、思わず足を一歩前に踏み出した。
「──お客様がおいでだ」
しかし、八雲の凜とした声が、それを既のところで引き止めた。
「おお、いらしたか」
サワサワと、木々の葉の擦れる音とぽん太の声が鼓膜を揺らす。
弾かれたように顔を上げた一同は、石畳を歩いてくるふたつの影に目を向けた。
(え……?)
同時に、一同は思わずといった様子で息を呑む。
前を歩く男性は、六十代半ばの老紳士といった雰囲気だ。
渋色の着物に羽織をまとい、粋な山高帽を被っている。
対して、その後ろを歩く女性も年の頃は六十代半ばといったところだろう。
華やかな桜色の品のある着物姿で和髪を結い上げ、やや俯き気味に歩いてくるのが見えた。