「い、いや、今のはつまり──」
「つ、つまり……?」
「あ……ああ、そうだ。花はつくもの仲居なのだから、主人である俺が守るのは当然だろうという意味で……」
そうして八雲は慌てた様子で言葉を紡ぐと、花を抱きしめていた腕を離した。
もう、しどろもどろだ。
だが、今の花にも八雲を冷静に俯瞰する余裕はないので、八雲が口にした言葉を花はそのまま素直に受け取った。
「そ、そうですよね! 主人として従業員を守る……って、そういう意味ですよね!」
告げられた言葉を反すうしながら、花は精一杯の笑みを浮かべた。
『従業員を守れない主人など、主人失格だと私は思います!』
それは以前、花が八雲に言い放った言葉だ。
八雲はあのときの花に言われたことを、実行しようとしているだけ。
ただそれだけのことだと花は自分自身に言い聞かせたが、何故か言い聞かせるたびに胸の奥が針で刺されたようにチクリと傷んだ。
(ほんとに、なんなのこれ……)
八雲の顔を見ることができない。
顔が熱い。血液も沸騰したように、身体中が熱かった。
「と、とにかく。また政宗に何かされたらすぐに言え。もちろん俺もできる限り、政宗がお前に手を出さないように見張っておく」
そうして八雲はそれだけ言い残すと、耳を赤く染めたまま、花の部屋を出ていった。
静かになった部屋の中で、花は腰を抜かしたまま立つことができず、八雲に声をかけることすらできなかった。
(も、もう、心臓がどうにかなりそうだよ……)
そっと伸ばした手は、鏡台の上に置いたままだった手鏡を取り上げる。
ドクドクとうるさい胸の音を誤魔化すように手鏡を抱きしめてみたけれど、鼓動は一向に鳴り止みそうにはなかった。