「おい、ニャン吉! お前、こんなところにいたのか──って、」


 今日も変わらず偉そうにふんぞり返った政宗は、仲居着姿で腕を組み、花たちを遥か上から見下ろしていた。


「ニャン吉、なんでお前……」


 けれど次の瞬間、花の肌がゾクリと粟立った。

 それというのも泣いているニャン吉を見た政宗の瞳の色が、みるみるうちに鮮血のごとく赤く染まりだしたのだ。


「ま、政宗しゃま……」

「おい、ニャン吉。なんでそんなふうに泣いてやがる」

「あ……、いえ……っ。これは──!」

「人間の女っ! テメェ、ニャン吉に何しやがった‼」


 落とされた怒号と共に、雷に打たれたような衝撃が花の全身を駆けめぐった。

 同時に、昨日までは黒かったはずの政宗の瞳と髪が、これまでになくハッキリとした赤色に変わっていく。

(な、なんで──?)

 花の身体はまるで金縛りにあったかのように動けなくなった。

 腕にはゾワゾワと鳥肌が立ち、自分の呼吸音と鼓動の音だけがやけに鮮明に聞こえている。


「テメェッ。俺の目の届かないところで、ニャン吉に辛く当たってやがったのか……っ!」


 目の前に立つ政宗の腕に、今度は銀色の鱗のようなものが浮き出始めた。

 それも今の今までなかったものだ。

 どう見ても、人の肌とは違っている。


「痛……っ!」


 素早く伸ばされた手は花の腕を掴んだが、政宗の手の爪は鋭く硬く尖っていて、まるで獣の爪のようだった。


「ま、政宗しゃまっ! 誤解です! どうか怒りをお鎮めください!」

「グルルルルルルル……ッ」


 唸り声も獣そのものだ。

 政宗の髪はザワザワとタテガミのように伸び、みるみる赤く染まっていった。

 鋭い爪が腕に突き刺さり、あまりの痛みと恐怖で花の身体はガタガタと震えた。

(た、助けて、誰か……っ)

 助けを呼びたいのに思うように声が出ない。

 花が思わず、ギュッと両目をキツく閉じた、そのとき──。


「何事だ!?」


 開いていた襖の向こうから八雲が現れた。

 八雲の声を耳にした花は、咄嗟に声のした方へと目を向ける。