「……あのさ、ニャン吉くん」
「はい、なんでしょうか!」
「ニャン吉くんには申し訳ないけど……ここでの若旦那修業は、ニャン吉くんじゃなくて政宗さん自身が頑張らないと意味ないんだよね?」
思い切って口を開いた花は、手に持っていた手鏡をそっと鏡台の上に置いた。
そして改めてニャン吉に向き直る。
これまで政宗が粗相をしたら、代わりに頭を下げて廻るのはニャン吉だった。
八雲が今回のことを引き受けたのも、付喪神であるニャン吉が涙ながらに懇願して頭を下げたからだ。
ニャン吉の、政宗に対する忠誠心は並々ならぬものであると伺える。
対して肝心の政宗は、そんなニャン吉に甘えてばかりで、態度を改めようともしなかった。
「政宗さん自身が、ここで立派に働いているところを見せないと、神成苑の大旦那様は政宗さんの夢を認めてくれないんだよね?」
「そ、それは……もちろん、そうなのですが……」
「だったら、ニャン吉くんがこれ以上政宗さんを甘やかしちゃうと、政宗さん自身のためにならないんじゃない? ニャン吉くんじゃなくて政宗さんが心を入れ替えて頑張らないと、大旦那様は政宗さんの現世行きを認めてくれないんじゃないかと思うけど……」
この一週間、健気なニャン吉を見ていたら、たった今告げた本心を口にすることはできなかった。
けれど花がふたりと一緒に仲居として働きながら、このままではいけないと感じていたのは事実なのだ。
「う、うう……っ」
花の真っ当な指摘を受けたニャン吉の目には、初日に八雲に頭を下げたときと同様かそれ以上の涙が浮かんだ。
「ご、ごも……っともで……。はな、花しゃまの……っ、仰ることは、ごもっともで……っ」
切れ切れの言葉と共に、ニャン吉の目から大粒の涙が溢れ落ちる。
えっぐ、えっぐ、と子供のように嗚咽を洩らして泣きだしてしまったニャン吉を前に、今度は花がオロオロして対応に困ってしまった。
「ご、ごめんね、ニャン吉くん。ニャン吉くんを泣かせるつもりはなかったんだけど、でも──」
そのときだ。
花がニャン吉を抱きしめようと手を伸ばした瞬間、パーン!と勢い良く部屋の襖が開かれた。
(え?)
弾かれたように顔を上げれば、背の高い男の影が視界に映る。