「ビ、ビックリした……」
「は……っ! あわわわわ! 花しゃま、驚かせてしまってごめんなしゃいです……!」
バクバクと高鳴る胸に手を当てた花を見たニャン吉は、慌てて畳の上に着地すると焦った様子で深々と頭を下げた。
「は、花しゃまは人だということを忘れておりました……‼ 誠に申し訳もござりませぬぅ〜!」
猫なのに二本足で歩きながら、オロオロとして汗を飛ばす様子は、とても可愛らしい。
「ど、どんなお叱りも受けますので!」
「……ぷっ、あはは。ううん、大丈夫、気にしないで。驚かされるのにはもう慣れてるから、本当に大丈夫だよ」
思わず吹き出した花は、クスクスと笑みを零した。
可愛らしいなんて言ったら、仮にも百年以上を生きる付喪神であるニャン吉には失礼だろう。
それでも我慢できずに笑ってしまった花は、ごく自然に真っ白なニャン吉の頭を優しく撫でた。
そうすればニャン吉は、ホッと息をついてから気持ち良さそうに目を細める。
トロンとした顔がまたたまらなく可愛くて、思わず花の顔も綻んだ。
「でも、急に部屋に来るなんてどうしたの? 何か急ぎの用事でもあった?」
「あ……っ! ややっ、用事というほどのことではないのですが……!」
「うん?」
「今日はお客しゃまの予約が入っていると聞きましたので、早めにお支度を始めたほうがいいかと思いまして、何かご用がないか聞きに来たのです!」
ふわふわの毛で覆われた尻尾を揺らしながら、ニャン吉は慌てて背筋を伸ばすと真っ直ぐに花を見つめた。
愛らしい仕草と真面目で純粋なニャン吉の言葉に、また必然的に花の胸がキュンと鳴る。
「ありがとう、ニャン吉くん。今日は客室の準備から始めて、そのあとはいつも通り宿内の掃除をして、従業員のみんなとお客様をお迎えする感じだよ」
「にゃるほどです!」
「それで……えっと、その……。政宗さんも、私達と一緒に準備を始められるのかな? お客様が来る前に、しっかりと打ち合わせもしておきたいし、できれば少しでも協力してもらえたら嬉しいんだけど……」
だが、花が口ごもりながらも政宗に言及すれば、ニャン吉はそれまで立てていた耳と尻尾をしょぼんと下げて俯いてしまった。