「ふふっ」
思い出したら胸の奥がくすぐったい。
八雲に貰った手鏡は、花の大切な宝物だ。
政宗と働くことになって戸惑っていた花に八雲は、
『政宗のことで何かあれば、すぐに言え。花はこれまで通り、花らしく仕事をしてくれたらいい』
と、優しい口調で励ましてくれた。
(私らしく仕事をすればいいって……つまり、八雲さんは少なからず、私を認めてくれてるってことだよね)
花は、それが嬉しくてたまらなかった。
八雲の言葉を思い出すたびに、政宗の暴言や悪態のひとつやふたつ、聞き流すことができるのだ。
「よしっ! 今日も頑張ろう!」
八雲の期待に応えたい。
心の中で改めて決意を固めた花は、手鏡をそっと胸に抱き寄せて微笑んだ──のだが、
「それは箱根名物の、寄木細工の手鏡ですね!」
「ひゃ……ひゃあっ⁉ って、ニャン吉くん!?」
突然、ドロン!という効果音とともに鏡台の真上にニャン吉が現れたことで、思わず後ろにひっくり返りそうになった。
情緒もへったくれもない。
花がつくもに来て、約四ヶ月。
これまで何度かぽん太や黒桜に驚かされたおかげで慣れたつもりでいたが、さすがに完全に気を抜いていたところに登場されたら悲鳴を上げずにいられない。