(思い出したら、また腹が立ってきた……)

 眉根を寄せて口をへの字に曲げた花は、鏡に映る自分を見つめながら目を眇めた。

 本当は暴言を吐かれたときに、ガツン!と言い返してやりたかった。

 けれど、ようやく話がまとまったところに水を差すのもどうかと思ったし、ニャン吉の可愛らしくて健気な姿を見たら、花は何も言えなくなったのだ。


「はぁ〜〜〜」


 その結果政宗は、初日以降もとにかく偉そうで、文句ばかり言っている。

 小言を口にしながらではないと仕事ができないのかと聞きたくなるほど、アレコレと花にケチをつけてきた。

(昨日なんて、自分のほうが仕事が早いとか言って、私のことをグズ呼ばわりしてたし……)

 実際、政宗の仕事は早い。

 しかし手際はかなり大雑把なもので、二日前には雑巾がけの最中に、客室に飾ってあった花瓶を割って再起不能にした。


「あのときも、こんなところに花瓶を置いておくやつが悪い!って怒りだして、代わりにニャン吉くんが謝ってくれたんだよねぇ……」


 独りごちた花は、今日何度目かわからない溜め息をついてから、鏡台の引き出しにしまってあった寄木細工の手鏡を取り出した。

(綺麗……)

 鮮やかな葡萄色と、目の覚めるような青貝色。

 加えて紅梅色の三色が、見事に木目になじんで伝統と近代とを結びつけた市松模様が美しい。

 その手鏡は、以前、花が八雲から貰ったものだった。

 八雲は、『俺からのボーナスだと思って受け取れ』と言っていたが、背を向けた際に見えた耳の先が赤く染まっていたことを、花は今でもハッキリと覚えている。