「ハァ……」


 そうしてしばらくしてから、つくもの玄関ホールに、もう何度か耳にしたことのある八雲のため息が響いた。


「……仕方がない、今回はニャン吉に免じて引き受けよう」

「え……っ!?」


 呆れ混じりに告げられた八雲の言葉に、それまで泣いていたニャン吉だけでなく、そこにいた全員がハッとして八雲を見た。


「後生だとまで言われたら、断れないだろう」


 八雲は付喪神に甘い。

 というより、幼い頃から自分の心の拠り所でいてくれた付喪神という存在を、とても大事に思っているのだ。

 だからこそ、招き猫の付喪神であるニャン吉の願いを無下にしないのは、八雲らしいといえば八雲らしいが……。


「ほ、本当ですか、八雲しゃま?」

「ああ、本当だ。ニャン吉の主人を思う気持ちは、とても素晴らしいものだな」


 穏やかな笑みを浮かべた八雲を見て、ニャン吉もパァッと表情を明るめた。


「う……っ。うう〜〜。あ、ありがとうございます! 本当にありがとうございます、八雲しゃま!」

「……ケッ」


 けれど肝心の政宗は、納得がいかないといった様子で眉根を寄せてそっぽを向いた。

 その態度にさすがの花も苛立ちを覚えたが、ここで何か言えばせっかくのニャン吉の想いを無駄にしそうなので、出かけた言葉を飲み込んだ。


「フォッフォッ、それではこれで、決まりかのぅ」


 ポンッ!と、ぽん太の腹太鼓の音が鳴り響く。

 主人の八雲が決めたのなら、つくもの従業員たちは従うまでだ。


(だけど、なんだかとんでもないことになった気がする──)


 きっと、そう思っているのは花だけではないだろう。


 嵐の予感を感じながら、花は呆然とその場に立ちつくしていることしかできなかった。