「八雲しゃまもご存知の通り、政宗しゃまは大変プライドの高いお方です! 頭を下げ、他者に何かを頼み込むというのが、何より苦手なのです」

「ニャン吉! テメェ、余計なこと言ってんじゃねぇ!」

「で、ですが! 今の政宗しゃまを助けられるのは、つくもの主人であらせられる、八雲しゃましかいないのです! 政宗しゃまと同じ境遇であられる、八雲しゃましか……っ」

「ニャン吉……」


 顔を上げたニャン吉の目にはやはり涙が浮かび、声も小さく震えていた。


「だから、どうか、どうか、政宗しゃまをお助けくださいませ! 力不足ながらこのニャン吉も、若旦那補佐として精一杯つくもでのお役目を果たさせていただきますゆえ! 何卒……! 何卒……っ」


 そこまで言うとニャン吉は、つくもの床に額をつけた。

 もふもふの白い肩は小さく震えている。

 あまりにも必死な様子に、その場にいる誰もが息をのんで、ニャン吉の小さな身体を見ていることしかできなかった。


「お、おい、ニャン吉! お前、何もそこまでする必要はねぇだろう……!」


 と、そばに駆け寄った政宗が、そんなニャン吉を後ろからヒョイと抱え上げた。


「うう……っ、ぐす……。で、でも、僕にはこんなことしかできませんから……っ」


 えっぐえっぐと嗚咽をもらすニャン吉の目からは、大粒の涙がボロボロと零れ落ちている。


(ニャン吉くんは、どうしてこの政宗って人のために、こんなに必死になってるんだろう……)


 ニャン吉は若旦那補佐……つまり、政宗の補佐をするのが仕事だからだろうか。

 しかし、これまでの様子を見ている限りでは、政宗はとにかく横暴で、口も態度も悪い男だ。

 実際に黒百合は政宗についてハッキリと、『大変横柄で、礼儀知らずな上に世間知らず』だと言い切った。

 そんな男に、いくら仕事だからといってここまで尽くせるものだろうか?


(私だったら無理……。さっきなんて、ブス、醜女とまで言われたし。それに、八雲さんとのことだって……)

 
 思わず俯いた花は、先ほど政宗に言われた言葉を頭の中で反すうした。

『だからお前はその女のことなんて、本当はどうとも思ってねぇんだろう?』

 今のところ、政宗の印象は最低最悪。

 それなのにニャン吉が、どうして健気に政宗のために頭を下げるのか、花には到底理解することができなかった。