「神成苑とつくもは古来より、切磋琢磨しながら商いしてきた。困ったときはお互い様として、これまで互いに助け合ってやってきたからのぅ」

「……ああ。だが、今回ばかりはいくら大旦那である光秀殿の頼みだとしても、肝心の政宗がこの態度では受け入れるのは難しい」


 冷静な口調で答えた八雲は、長いまつ毛を静かに伏せた。

 八雲の判断に異を唱えるものはいなかった。

 もちろん──ただひとりを除いては。


「おい……! 八雲、ふざけるなよ! テメェ、何偉そうなこと言ってやがる!」


 再び声を荒げたのは政宗だ。

 政宗は勢いのまま八雲に掴みかかろうとしたが──そばにいたニャン吉が、政宗の服を掴んで止めた。


「ま、政宗しゃま! ダメです、そのようなことを仰っては!」

「あ? ニャン吉、お前は黙って──」

「黙ってなどいられませぬ! なぜなら、今回のことで政宗しゃまの未来が決まるかもしれないのですよ⁉」


 ニャン吉は政宗の言葉を遮り、力いっぱい叫んだ。

 政宗が怯む。

 それを見たニャン吉は政宗の服の裾を掴んでいた手を離すと、今度は八雲の前までちょこちょこと駆けてきた。



「八雲しゃま! 後生です! この度の政宗しゃまの非礼の数々は、このニャン吉が詫びますゆえ、どうかお許しくださいませ!」

「は……?」


 
 そして大きな目にいっぱいの涙を溜めて、八雲の前で正座をすると、ちょこんと三つ指をついて頭を下げた。


「政宗しゃまは、ここに来る前にも大旦那しゃまに色々とキツく言われたこともあり、少々気を落としておられたのです!」


 思わず心の中で、『気を落としてこの偉そうな態度か』とツッコんだのは、花だけではないだろう。