「──あいあい、おふたりさん。そこまでにするだわさ」


 と、パンパン!と手を鳴らして険悪な空気を払ったのは黒百合だ。

 花がハッとして顔を上げれば、黒百合はヤレヤレといった様子で息をついた。


「まぁ、そんなわけでつくもの皆々様。うちの政宗坊が来て早々、大変な無礼を働きまして申し訳ないだわさ」


 黒百合は何事もなかったかのように飄々と話を続けたが、花の胸の痛みは消えずに大きな不安を残してしまう。


「生憎、見ての通り、うちの政宗坊は大変横柄(おうへい)で、礼儀知らずな上に世間知らずで、オマケに口も悪い男でして。つくもにご迷惑をかけまくることは間違いないわさ」

「テ、テメェ、黒百合……っ」

「ですがそんな政宗坊も、今回ここで自分の生きる力を示さなければ、この先も一生籠の中の鳥。狭間を出て、現世で生きてゆくことなど夢のまた夢に終わるわさ」


 そこまで言うと黒百合は、冷たい目を政宗へと向けた。

 氷のような視線に射抜かれた政宗は声を詰まらせ、決まりが悪いといった様子で顔を逸らした。


「政宗坊も己の目的を達成するため、まずは謙虚という言葉の意味から勉強し、つくもで誠心誠意お励みなされ」


 真っ当な叱責だ。

 政宗は今度こそ返す言葉を失うと、フンッと鼻を鳴らして黙り込んだ。


「……と、まぁ、そんなわけじゃ。どうする、八雲?」


 そうしてひと呼吸置いたあと、ぽん太が八雲に尋ねた。

 ようやく、一連の事情を把握することができた。

 けれど政宗を預かるかどうかは、最終的にはつくもの主人である八雲の裁量次第なのだ。

 しかし、当の八雲は先ほどから眉根を寄せて、難しい顔をしている。