「だからお前はその女のことなんて、本当はどうとも思ってねぇんだろう?」


 言葉を続けた政宗は、今度は厳しく花を睨みつける。


「好きでもない女を、くだらない仕来りのために利用してるだけなんじゃねぇの? 本当に惚れてる女なら……逆に、この世界の狂った事情には巻き込みたくないと思うもんなぁ」


 ドクン、ドクン、と花の心臓が不穏な音を立て始めた。

 本当に好きな人なら、この世界の事情には巻き込みたくない。

 確かに、政宗の言うとおりなのかもしれない。

 ここは、本来であれば人が生きていける場所ではないのだ。

 代々つくもを継ぐ宿命を背負う八雲が特殊な例というだけ。

 とはいえ花も、本当に八雲の嫁候補というわけではないので、本来ならば、今政宗が言ったことなど気にする必要もないのだが──。


「こんな女、お前は本当はどうでもいいと思ってんだろう」

「……政宗、花にまで悪態をつくのはやめろ」


 ズキン、と花の胸に鋭い痛みが走った。

 思わず俯いた花は、胸の前で握りしめた手に力を込めた。

 八雲はすぐに花を守るように政宗を牽制したが、花の胸の痛みは増すばかりだった。


(いやいや、別に私が気にするようなことは何もないじゃない。だって私は八雲さんの偽の嫁候補で、借金を返済したら、ここを出ていく身なんだし……)


 最初から、お互いに恋愛感情を抱いているわけではなかった。

 だから今、政宗に何を言われても大丈夫だ。

 そう頭ではわかっているのに、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。

 考えれば考えるほど目眩を起こしそうになって、花は必死に両足を地につけて踏ん張った。