「これこれ、お前さんたち、それはさておきじゃ。今はわしの説明を聞くのが先じゃろぅ」
ポン!と、ぽん太が再び腹太鼓を鳴らした。
ハッとして花と黒桜がぽん太に目を向ければ、ぽん太はもふもふの尻尾を揺らして、静かに自分の顎を撫でた。
「話を戻すぞい。それで今、どうしてその神成苑の一行がここにいるかということじゃが……。先ほどわしが電話で話していたのは、政宗の父で神成苑の大旦那を務めている光秀という男じゃ。その光秀に、わしはある頼みごとをされてのぅ」
今度は誰も話の腰を折ろうとはしなかった。
「その、頼みごとというのはの──」
そうして続けられたぽん太の話はこうだ。
神成苑の若旦那である政宗を、しばらくつくもで預かってほしい。
預かるといっても、花嫁修業ならぬ、若旦那修業という名目で、つくもの従業員として働かせてやってくれということだ。
「で、でも、なんで神成苑の若旦那が、わざわざつくもで若旦那修行なんてする必要があるんですか?」
「それはのぅ、ちょう助。政宗はどうやら、若旦那を辞めたがっているようでの」
「若旦那を辞めたがってる⁉」
「ああ。それで若旦那を辞めたあとは、ひとり、現世で生きていこうと思っておるらしい」
「現世で生きていくって……え、本気なの?」
ぽん太に相槌を打っていたちょう助は、驚いた様子で政宗を見た。
しかし政宗は腕を組み、眉根を寄せて斜め下を向いている。
「光秀が言うには、本気らしい。じゃが、これまで狭間を出たことのない世間知らずのボンボンが、今の状態で現世に出ても早々にのたれ死ぬのがオチじゃろぅなぁ」
「──っ、テメェ! この古狸! 今、なんつった!」
「フォッフォッ。事実を言ったまでじゃよ。光秀は、政宗がつくもで立派に務めを果たしてみせれば、政宗の現世行きを許すと約束したそうじゃ。なぁ、そうじゃろう、政宗よ」
政宗に凄まれても、ぽん太は素知らぬ顔で言い切ってニッコリと笑ってみせた。
反対に政宗は悔しそうに顔を歪ませ、拳を震わせている。