『政宗。貴様がいつまでもそんな風では、何も変わらぬぞ』

「ケッ。余計なお世話だっつってんだろ! こっちはテメーに指図されんのは、いい加減ウンザリなんだよ!」

『何をぅ〜〜! 貴様、親に向かってそのような物言いをするとは、このわしとていい加減に堪忍袋の緒が──』


 けれど、ふたりの会話に一同が呆然としていたら、


「……あいあい、ちょいと失礼」


 唐突に、ドロン!という聞き慣れた効果音と共に白い煙が立ち、これまた見知らぬ和服姿の女性が玄関ホールに現れた。

(今度は何……⁉)


「政宗坊、いい加減に黙るだわさ」

「イテっ! テメェ! 何しやがる、黒百合(くろゆり)!」


 "黒百合"と呼ばれたその女性は、いきり立つ政宗の頭をペチンと叩いて諌めた。

 そのせいで、今度は政宗の怒りの矛先が黒百合に移る。


「政宗坊がいつまでも騒いでいるせいで、なかなか本題に入れないだわさ。無駄な時間とエネルギーをお使いなさるな、鬱陶しい」


 けれど黒百合は、政宗など意にも介さず飄々としていた。

 花はそんなふたりのやり取りを、やはり唖然としながら眺めていることしかできなかった。


(きょ、強烈だけど、すっごい美人……)


 黒百合は腰までの長い黒髪に、黒い着物を身にまとったクールビューティーだった。

 口紅の赤が上品な顔立ちによく映えている。

 スラリとした身体つきをしていて、どこからどう見ても人の成りをしているが、足元は地面から離れて身体ごとふよふよと宙に浮いていた。


「つーか、なんでお前がここにいるんだよ! お前の仕事は親父の補佐だろうが!」

「ええ、だからこそ忙しい大旦那様の代わりに、ワイがこちらにご挨拶とご説明に参ったんだわさ」


 ニイッと狡猾な笑みを浮かべた黒百合は、政宗を軽くあしらった後、おもむろにつくもの面々へと目を向けた。

 思わずドキリと、花の心臓が飛び跳ねる。

 美しいが、氷のように冷たい目だ。

 黒百合は八雲、ちょう助、ぽん太、花──と順に視線を動かしてから、最後に黒桜を視界に映すと目を眇めた。

 反対に黒桜は斜め下を向いたまま、黒百合の方を見ようともしない。


(黒桜さん……?)


 花はそんな黒桜の態度を不思議に思ったが、今は事情を尋ねられるような空気ではなかった。