「なーんだ、八雲。テメェ、いたのか。相変わらず陰気臭くて、気づかなかったわ」


 対して男は腕を組み、ふんぞり返りながら嘲笑を浮かべて応戦する。

 政宗──たった今、八雲は確かに男のことをそう呼んだ。


(ってことは、もしかして、さっきぽん太さんが電話口で言ってた政宗って、この人のこと?)


「陰気臭いのはお互い様だろう。……ああ、いや。お前の場合は、"陰険"と言ったほうが正しいか」

「はァ⁉ 何言ってんだ、そりゃテメーだろ!」

「どうかな?」

「スカしてんじゃねーよ!」


 あっという間に、ふたりの間に一触即発といった空気が流れる。


(な、何これ、どういうこと!?)


 思いもよらない展開に花が狼狽していると、


『──政宗っ! すべてわしに聞こえとるぞ! これから世話になる相手方に対して、さっそく非礼な振る舞いをするとは何事ぞ!』


 今度は雷が落ちたような怒鳴り声が、受話器を通じて響き渡った。

 反射的にそこにいる全員が、ビクリと肩を揺らしてぽん太が持つ受話器へと目を向ける。


「う、うるせぇな、クソ親父! 俺だって好きでこんなところに来てるわけじゃねぇ‼」

「ク、クソ親父って……」

(ちょっと待って。ってことは、電話相手の光秀さんが、この政宗って人のお父さんってこと?)



 明智光秀の子供が伊達政宗という、歴史的新事実は無さそうだ。

 花がくだらないことで頭を悩ませている間にも、つくもの玄関ホールで受話器越しの親子喧嘩はヒートアップしていった。


「いちいち電話なんてかけてきてんじゃねぇよ!」

『わしは貴様のためではなく、礼儀としてつくもに電話をかけたんじゃ!』


 受話器を持っているぽん太も苦笑いだ。

 ちょう助に至っては、もうずっと無言で立ち竦んだままで動かず、黒桜は──やはり居心地が悪そうに眉根を寄せて、視線を斜め下へと落としていた。