「ああ……。そりゃあ、お前さんの頼みであれば無下にはできんが……。じゃが、もし受け入れるとなったら、こちらも色々と前準備をせにゃならんし──」

「おーおー、相変わらず古くせぇ宿だなぁ」


 そのときだ。

 聞き慣れない声が、つくもの玄関ホールに響き渡った。

 一同がハッとして声のした方へと目をやれば、見知らぬ男が玄関に仁王立ちしていた。


(だ、誰……?)


 男は黒髪短髪に、ところどころ赤のメッシュが入った髪型をしている。

 身長は八雲と同じく、百八十を超えているだろう。

 目鼻立ちのハッキリした顔立ちだ。

 八雲はどちらかといえば中性的な色香漂う色男だが、今、一同の前に現れた男は野性的な雰囲気を醸し出す男前だった。

 服装も、顔つきに合っている。

 左耳には臙脂色(えんじいろ)のピアス、ダメージジーンズに黒のVネックのカットソー、スカジャンという出で立ちだ。

 兎にも角にも、八雲と並んでも遜色ない美男子なのは間違いなかった。

 だが、眉根を寄せて腕を組んでいる様や、醸し出す空気はどこか張り詰めている。


「おいおい、出迎えの挨拶もなしかよ」

「ま、政宗しゃま! お客しゃまならまだしも、これからお世話になる身だというのに、そのようなことを仰ってはいけません〜!」


 そして男は傍らに、一匹の白い猫を連れていた。

 当然のように、ただの白猫ではない。

 ぽん太と同じく、二本足で歩いて喋る、もふもふの白猫だ。


(か、かわいい……)


 ただの人である花も、つくもに来て免疫がついたせいで驚くことはなかった。

 白猫は、首に鈴のついた赤い首紐をつけている。

 ぎゅっと抱き締めて、もふもふ、ふわふわの毛に顔を埋めたい……という煩悩を花が抱いたのは一瞬で、すぐに男の粗暴な声が花を現実へと引き戻した。