「……ん? おお、光秀か? これは随分と珍しいのぅ」
けれど花の予想に反して、電話に出たぽん太は驚いた表情をしてから、口調に親しみを込めた。
そして、そんなぽん太の言葉を聞き──花の横に立っていた黒桜は反射的に身を強張らせたあと、表情を曇らせた。
「……っ、」
「黒桜さん? どうかしましたか?」
「あ……い、いえ……」
不思議に思った花は、咄嗟に黒桜に尋ねた。
しかし黒桜は曖昧な返事をすると、すぐに視線を斜め下へと逸らしてしまった。
(どうしたんだろう?)
黒桜の挙動に花は疑問を抱いたが、今はぽん太の電話の相手が気になって仕方がなかった。
今、ぽん太は確かに電話口の相手のことを『光秀』と呼んだ。
(光秀って……まさか、明智光秀じゃないよね?)
その名を聞けば、誰もがかの有名な戦国武将を思い浮かべることだろう。
とはいえ、ここ、つくもは付喪神専用の温泉宿だ。
遥か昔に亡くなったはずの戦国武将から電話がかかってくるはずもない……が、鎌倉時代に造られた国宝の付喪神が泊まりに来たこともあったので、万が一という可能性も捨てきれない。
「……ふむ。何? お前のところの、政宗を?」
花が思考を巡らせていると、今度は別の名前が飛び出した。
政宗といえば、やっぱり一番に思い浮かぶのは、光秀と同じく有名な戦国武将のひとりである、伊達政宗だ。