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「黒桜さん、留守番ありがとうございました! これ、よかったら食べてください」


 現世で子供たちに帰宅時間を知らせるチャイムが鳴る頃、一行はつくもに帰ってきた。

 花が代表して土産の入った手提げ袋を差し出すと、今日も黒い着物を身にまとった黒桜は驚いた様子で花と袋を交互に見た。


「私にですか?」

「はい! ぽん太さんいわく、熱海に住んでいたら知らない人はいないってくらい、大人気の蒸しパンらしいんですけど……」


 袋を受け取った黒桜は早速ひとつ、包装された蒸しパンを手に取った。

 触っただけでももっちり、ふわふわなのがよくわかる。


「実は我慢できなくて、試食と乗じてひとつ食べたんですけど……。見た目通り、ふわっふわなのにモチモチしっとりした口当たりで、すっっごくおいしくて! 黒桜さんにも是非、食べてもらいたいなと思って買ってきました」


 えへへ、と笑みをこぼしながら、花はここへ来るまでの間に食べた蒸しパンの味を思い出した。

 あのあと商店街を出た一行は、ぽん太の勧めで熱海の某商業ビルに移動すると、そこでこの蒸しパンを購入した。


『わしは、ここの蒸しパンが昔から大好きなんじゃ』


 ぽん太の言葉通り、花が選んだ黒糖を使った蒸しパンは口に入れた瞬間、優しい甘みと香りがして心を幸せで満たしてくれた。

 フカフカの歯ごたえで、甘すぎないところがちょっとした軽食には持ってこいの一品だ。

 気取らない、昔ながらの蒸しパンという感じも懐かしい気持ちにさせてくれる。

 ぽん太いわく、熱海のソウルフードのひとつなのだという。