「このあとの仕事は、ぽん太と黒桜に代わるはずだろう」
「そ、それは……」
「もうあまり、時間がない」
「え……?」
「とりあえず、話は現世に行ってからにしよう」
けれど結局、花は半ば強引に八雲の誘いを受ける羽目になった。
ゆっくりと階段を上ってきた八雲を前に花は立ち尽くしていることしかできず、八雲に手を取られるまで、声を発することもできなかった。
「あ……」
「大丈夫だ。花が不安になるようなことはない」
繋がれた手から伝わる熱が、いつもより熱く感じる。
そうして次の瞬間、八雲が何かを唱えたと同時に花の身体は真っ暗な闇に包まれた。
「え……!?」
気がつくと、花は現世に降り立っていた。
慌てて隣を見れば八雲と手は繋がったままで、花は思わずホッと胸を撫で下ろした。
「時間がなかったので、服装はそのままですまない」
言葉の通り、服装は八雲も花も、着物に仲居着のままだった。
「よかった……」
「どうした?」
「い、いえ。仲居着のままなら、とりあえず、このまま現世に置いていかれることはなさそうだなって……」
胸に抱いていた不安が口をついて出た。
言葉にしてから失態に気付いた花は、慌てて八雲の顔を改めて見上げた。