「それじゃあ、いろいろ世話になったな」


 大好評のうちに終わった【つくも縁日】の翌々日。

 若旦那修行という名目でやってきた政宗は、補佐であるニャン吉と共に本来の居場所である神成苑へと帰ることになった。


「八雲しゃま、つくもの皆しゃま、そして花しゃま。本当にありがとうございましたです!」


 来たときには手ぶらだったはずのニャン吉は、帰り際には自分の身体の半分ほどの大きさの風呂敷を背負って笑顔を見せた。


「ううっ、ニャン吉くん〜〜。最後にもう一度、ギュッとさせて〜〜!」


 別れを惜しみ続ける花が屈めば、ニャン吉は短い手を精一杯伸ばして花の身体にしがみついた。


「花しゃま、どうかお元気で。この度のご恩を、ニャン吉は一生忘れませぬ」


 真っ白でモフモフの身体は、とても温かくて優しくて、穏やかだ。

 幸せそうに微笑むニャン吉を見て、花はそっと微笑んでから、今日何度目かの悩ましい溜め息をついた。


「ハァァァ〜〜……辛い……」

「花しゃま?」

「ニャン吉くんが愛しすぎるよ……。ねぇ、ニャン吉くん。うるさい政宗の補佐なんてやめて、このままつくもで私と一緒に働かない?」

「おい、ブス。うちの従業員を勝手に勧誘してんじゃねーよ」


 すかさず政宗に注意を受けた花は、フン!と鼻を鳴らしたあと名残惜しそうにニャン吉の身体を離した。