一度溢れてしまった涙。栓が抜けた蛇口からは、たくさんの水が溢れるようにそれを止めるすべはもうなくて。
小さく唇を噛み締めて、泣いた。


私、最近ずっと泣いてなかったのに。
そもそも人前で泣くことなんて一度もなかった。
どんなに苦しくてもつらくても泣くのは自分の部屋で一人のときだけに、と決めていた。

それなのに先輩のそばにいると気が緩んでしまう。
それとも私が弱くなったのかな。
苦しみに耐えられなくなったのかな。
──いや、違う。
これはきっと、先輩のせい。


「明日は晴れるといいな」


髪の毛の隙間からするすると入り込む先輩の声。

今日の天気は、快晴で雲一つない空だった。
それなのにそんなことを言うのはおかしい。
だとすれば、先輩は私に対して言ってるのだとすぐに分かる。
先輩、私が泣いてるの気づいてる?
でもそれを指摘しようとはしない。
だから代わりにそんなことを言ったんだ。


私は泣いている。
だから天気は雨。

“明日は晴れるといいな”


先輩が言った言葉が頭の中で何度も何度もリピートされる。
その言葉に隠された意味。
それは、私が明日は笑えるようになるといいな、ということだった。

先輩は何も言ってはいない。
その代わり遠回しにそんな言葉を残した。


私も思った。
私も願った。
明日が晴れますようにと。
明日笑っていられるようにと。

そう、思いながらとめどない溢れる涙をスカートで受け取った──。