「……話さなくて、いいんですか」
「七海の顔見てたら聞かない方がいいことくらいわかるよ」
「私の顔……?」
どんな顔をしているんだろう。
確かに笑顔ではないと思うけど、と思いながら頬に触れると、
「人には聞かれたくないことの一つや二つは当たり前。それを強引に聞こうなんてそんな野蛮なマネ、俺はしないよ」
と言って私に向かって手を伸ばす。
その反動でぎゅっと目を閉じると、ふわりと頭に乗っかった何か。
目を開けずとも一瞬で理解する。
──あお先輩の手のひらだ。
目を開けた私、先輩と視線がぶつかった。
一見クールで怖そうに見える先輩。
それなのに笑顔はとても優しくて、手のひらから伝わる熱がじんわりと伝わってくる。
「ほんとに聞かないんですか?」
「なに。聞いてほしいの?」
「そう、じゃないですけど……」
唇を噛み締めて俯くと、
「聞かないから安心して」
と私を簡単に安心させる先輩。
たった一つしか歳が変わらないのに、先輩は私よりもうんと大人だ。
私は自分のことでこんなに動揺するのに。
それとも先輩に私の心を全部読まれているかのように、容易く私を言いくるめる。
「でも」言葉を続けると、
「七海の力になってやりたい」
「……え?」
私は思わず顔をあげる。
「どうしてそこまで…」
「なんでだろうね」
フッと口元を緩めると、俺にもよく分かんない、と言って頬杖をついた。
そういえば、この前もそんなことを言っていたなぁと思い出す。
初対面の相手にそんなことを言えるあお先輩はすごいと思ったもん。
嘘をつく人間なんてこの世界にたくさんいるのに……。