──ダンダン、ダンッ


「七海!」


足音と声がして、恐る恐る顔をあげると、息を切らせて壁に手をついていたあお先輩がいた。


「あお、先輩…」
「何かあったの?」


ハア、ハアと肩で呼吸をしながら汗を袖で拭って階段を一段ずつ登ってくるあお先輩。
私の隣に、人一人分のスペースを開けて静かに腰を下ろす。


「友人に八つ当たりしちゃって…」
「八つ当たり?」

尋ねられて、コクリと頷く。

言葉の選択は正しかったのかな。
あれは私が一方的に言ったに違いない。


「どうして八つ当たりしたの?」
「それは、積もり積もったものに火がついちゃったというか…」
「積もり積もった?」

私はそれに、小さく頷いた。

「でも火がついたきっかけは何かあるんでしょ?」
「それは……」


思い当たるふしが一つだけ浮かぶが、それを言葉にすることができずに口ごもる。

今までだってさらりと受け流せていたことが、ブレスレットがなくなってしまったせいで流せなくなった。
美織ちゃんとのやりとりが頭にこびりついて、それを思い出したあの瞬間、自分で自分を抑えることができなかった。

聞かないでほしいと拒絶してしまう。
もちろん説明しなかった私にも非があるかもしれない。
けれど、複雑な家庭環境なんて自ら進んで話す人はいないでしょ。


何も答えない私を見て、そっか、とポツリと言葉を落とすと、

「話したくないなら話さなくてもいい」

と続けた。