さっき見ましたけど、と思いながらも空へと視線を向けると、夕焼けのオレンジ色はさらに空を侵食していた。
なんか放課後の教室で二人で空の景色を見るなんて、まるで青春だなぁと思うも、いやいや相手は先生だから! とぶんぶんと首を振った。


「なんか空の景色見てると心落ち着くよな。花枝もそんなことない?」
「あ、まあ…落ち着きます」
「だよなぁ。嫌なこと全部忘れそうになる」
「…先生も嫌なことあるんですか?」
「そりゃあ人間生きてたら嫌なことの一つや二つは当たり前。特に人間関係とかな」


生徒に俺は何言ってるんだろうな、そう言ってはははっと笑う先生。

"人間関係"で悩んでるって、それってまるで"あお先輩"みたい……。
え、宮原先生が? いやいや、まさか。
こんな近くにいるはずないじゃん。

だけど、さっきのタイミングといい言葉といい、あお先輩が言っていたことと被る。


「…先生って名前なんでしたっけ?」
「ん? 宮原碧(みやはらあおい)たけど」


うそ。先生、"あおい"なんだ。
それってまるで"あお先輩"みたい……。


「名前がどうかしたのか?」
「えっ、あっ、いや何も!」


慌てて誤魔化すと、あまりの挙動不審におかしかったのか先生はふはっ! とメガネの奥の瞳が細くなった。
先生そんなふうに笑うんだ……。

今まで全然、異性のことなんてなんとも思わなかったのに先生がもしかしたら"あお先輩"かもしれないと思うと、意識せずにはいられなかった。


「つーか、先生の名前覚えてくれてなかったのか? 担任になってもう二年目だぞ?」
「あっ、いやそれは…ちょっとど忘れと言いますか…」


先生があお先輩かもしれない、と思うといつも通りにできなくて、窓の外に目を向けながら言い訳を取り繕った。
先生がいる右側だけが、やけに熱い。
どきどきと鼓動が疾走する。